最新記事

米大統領選

トランプにここまで粘られるアメリカはバカの連合国

2016年10月11日(火)19時42分
マックス・ブーツ(米外交問題評議会のシニアフェロー、専門は国家安全保障)

トランプ支持者 Mike Segar-REUTERS

<なぜドナルド・トランプのような無知な男がさっさと米大統領選から姿を消さないのか。その理由を考えていて気付いた。アメリカでは立派な社会人でも、国務省や大使の存在さえ知らないのが当たり前。選挙で賢明な選択をするための基礎知識、民主主義の土台が浸食されている>

 ドナルド・トランプほど無知で大統領にふさわしくない男が、今年の米大統領選であと一歩のところまで粘っているのはなぜなのか。そう考えるたびにいつも思い出すのは、友人がマンハッタンの高級スポーツジムで会った女性トレーナーの話だ。知的で感じが良い女性だったが、民主党の大統領候補ヒラリー・クリントンが国務長官だった2012年に起きたリビア・ベンガジの米領事館襲撃事件の話題に触れると、困惑されてしまった。彼女はベンガジ事件を知らないだけでなく、国務長官や国務省、大使という存在自体が初耳だったからだ。

【参考記事】アメリカの「ネトウヨ」と「新反動主義」


 彼女は高校を中退したわけでも、最近アメリカに移民したわけでもない。アメリカで生まれ、名の通った4年制大学を卒業したアメリカ人だ。彼女は16年間この国で教育を受けてきたにも関わらず、政府に関する最も初歩的な事実さえ知らなかった。

 私は長年、アメリカの教育制度を楽観視してきた。国際学力調査でアメリカの子供の学力が諸外国にどんどん追い抜かれ、なかでも数学と科学は散々だというのは知っている。それでも、IT革命で世界を牽引してきたアメリカで、学校教育がお粗末なはずはないと思った。

三権分立わかりません

 今になって思い違いに気付いた。大統領選が進むほどに、アメリカ人が無知になり、そのせいで社会が大きな代償を支払わされているのがわかってきたのだ。

 米シンクタンク・マンハッタン政策研究所のソル・スターンは、米メディアサイト「デイリー・ビースト」で次のように指摘した。1990年代の終わりまでに、高校4年生の3人に2人が、南北戦争のあった年代を正しく選ぶことが出来なかった。2人に1人は第一次大戦があった年代も知らなかった。半数以上が「三権分立」の三権(立法権、司法権、行政権)を挙げることができなかった。大多数はエイブラハム・リンカーン大統領が行った『ゲティスバーグ演説』の内容が何だったか見当もつかず、「ドイツ、イタリア、日本」の3カ国が第二次大戦中に同盟国だったと答えた割合は52%に上った。

【参考記事】パックンが斬る、トランプ現象の行方【後編、パックン亡命のシナリオ】

 21世紀に入るとさらにひどいと、スターンは言う。数年前、米ニューズウィークが1000人の米有権者を対象に、アメリカの市民権を申請する移民が受けるのと同じ試験を受けてもらった。すると3人中1人は米副大統領の名前が分からず、半数はアメリカ合衆国憲法の修正第1条から第10条までを『権利章典』と呼ぶことを知らなかった。合衆国憲法がアメリカにおける最高の法であることを知るのは3人に1人だけだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、インドを国賓訪問 モディ氏と貿易やエネ

ビジネス

米製造業新規受注、9月は前月比0.2%増 関税影響

ワールド

仏独首脳、米国のウクライナ和平案に強い懐疑感 「領

ビジネス

26年相場、AIの市場けん引続くが波乱も=ブラック
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中