アメリカの「ネトウヨ」と「新反動主義」
ヒラリー・クリントンも演説で「Alt-right(オルタナ右翼)」を語る Aaron P. Bernstein-REUTERS
<「新反動主義」を含む「ネトウヨ的思想」がアメリカで流行り始めている。シリコンバレーの起業家、ベンチャーキャピタリストにも信奉者がいるようだ。その背景と思想とは...>
ネトウヨ的思想がアメリカで流行り始めている
このところ「neoreactionism」に興味を持っている。ネオリベラリズムは新自由主義、ネオコンサバティズムは新保守主義と訳されるので、ネオリアクショニズムは新反動主義とでも訳すべきか。略してNRxと書かれることもある。
最近、新反動主義を含むこの種のネトウヨ的思想がアメリカで流行り始めているようで、まとめてAlt-right(オルタナロックならぬオルタナ右翼とでも称すべきか)と称するのだが、この関係の人脈が米共和党の大統領候補になったドナルド・トランプの陣営にまで潜り込んでいる。
そのせいもあり、トランプやヒラリー・クリントンの演説でもAlt-rightが大まじめに語られるようになった。少し前まではごく少数の変人だけが興味を持つフリンジ(異端)に過ぎなかったのが、メインストリームのメディアにも取り上げられるようになったわけで、これは大出世と言えよう。率直に言えば、ポリティカル・コレクトネスやラジカル・フェミニズムにうんざりした連中がそれなりの数存在する、ということの反映でもあるように思う。
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元々の反動主義は、素晴らしい(と多くの場合空想/妄想された)過去の「黄金時代」への逆行ということで、フランス革命を否定して王政復古したいとか、共産主義革命を否定して君主制に戻りたいとか、あるいは戦後の日本を否定して戦前の日本に戻りたいとか、その手の政治的立場のことを指すが、新反動主義が否定するのはフランス革命以来培われてきたリベラルな民主主義そのものである。
ではどこへ戻りたいかというと、これが封建主義(feudalism)なのですね。今さら封建主義と言われても具体的なイメージが湧かないと思うが、ようは弱肉強食の強者による支配(これを自然秩序(Natural order)と称する)である。
当然、封建主義のどこが素晴らしいんだという疑問が湧くと思うのだが、これに対しては、例えばアメリカの現状を見ろ、治安の悪化、移民増加による失業や産業の破壊、環境破壊、拡大するばかりの格差、国家債務の爆発的増大、人種対立などを見れば、今より昔のほうが優れていないとは言えないではないか、と強弁する(この現状認識自体どうかしているようにも思われるわけだが、少なからぬ人々に共有されているらしい)。
昔へ戻ると言うと、なんだか中世の不衛生でばたばた伝染病で死ぬような社会を思い浮かべるわけだが、新反動主義ではテクノロジーや資本主義を否定するわけではない(むしろ技術決定論的というか、技術信仰に近い)という点には注意が必要だ。
ちなみに昔は強者である領主やら軍閥やらは領土を持っていたわけだが、今だとようするに強者イコール富者、それも遺産を相続したとかではなく、自分の能力でのし上がった人に意思決定を委ねたい、ということのようである。「イーロン・マスクを我らの王に!」みたいな話ですよ。
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