最新記事

スンニ派

【写真特集】イラクから脱出できないスンニ派住民の苦難

2016年6月6日(月)17時15分
Photographs by Moises Saman

Moises Saman-Magnum Photos

<イラクのスンニ派コミュニティはISISを支援していると言われているが、それほど単純な構図ではない。スンニ派住民の多くが故郷を追われ、戦闘が続く中で戻る場所さえ失っている>

(記事トップの写真:サラハディン州のアルブ・アジール村で、焼失した家の前にたたずむスンニ派住民のバラシム。イラク北部のISISの支配地域を脱出し、命からがら村に到着したところを撮影された。腕に抱いている男の子の母親は、逃避行の途中で地雷を踏んで死亡。バラシムは母を亡くした少年をずっと腕に抱えて村にたどり着いた。国際赤十字が彼らに対して食料提供や水道の復旧支援を行っている。)

 首都バグダッドから車で数時間、イラク中部のハバニヤ湖はかつて新婚旅行のカップルや家族連れでにぎわう高級リゾート地だった。フセイン政権崩壊後しばらくは国内避難民のキャンプとして使われたが、09年に米軍などの協力を得て観光業が再興。4年前まではジェットスキーが湖面を行き交い、ビーチには子供たちの歓声があふれた。

 だが今やそんな光景は想像さえできない。ハバニヤ湖があるアンバル州はスンニ派住民が多数を占め、03年の米軍のイラク侵攻で激戦地となった地域だ。14年にはテロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)が同州の大半を制圧したが、現在は政府軍が米軍の支援を得て奪還を進めている。ハバニヤ湖は、14年1月以来ISISの支配下にあるファルージャと、昨年12月に政府軍が奪還した州都ラマディの間に位置する。

【参考記事】イラク・ファッルージャ奪回の背景にあるもの

 写真家のモイセス・サマンが今年2月、ハバニヤ湖畔を訪れた際には、スンニ派の4000家族が壊れそうなホテルとビーチに建てられた小屋で暮らしていた。水道も電気も下水道もなく、食料は国際赤十字頼み。かつてボートでにぎわった湖の水は飲料水として使われている。

 ISISから逃れてシリアやイラクの故郷を捨てた多くの難民の苦難の物語──定員オーバーのボートで海を渡り、欧州を目指す危険な旅路──に世界の関心が集まっている。一方で、それ以上に多くのシリア人やイラク人が母国を脱出することさえできず、行くあてなくさまよっているのもまた事実だ。


ppsunni02.jpg(かつてイラク有数の人気観光地として知られたハバニヤ湖畔のリゾートエリアでは、家を追われたスンニ派住民4000家族が先の見えない避難生活を送っている。彼らはISISと政府軍が激しい衝突を繰り広げるファルージャやラマディから逃れてきた。水道や下水道、電気の供給も滞っており、劣悪な環境での生活が続いている。)Moises Saman-Magnum Photos


ppsunni03.jpg(アンバル州のマルカジ避難民キャンプで暮らす少女。このキャンプの住人の多くは政府軍とISISの戦闘が繰り広げられる州都ラマディから逃れてきた人々だ。昨年4月以降に25万人以上がラマディを脱出したが、その大半はアンバル州内にとどまり、学校や建設中の建物で寝泊まりしたり、親戚の家に身を寄せたりしている。キャンプの住人はほとんど収入がなく、病気を抱えた人も多い。)Moises Saman-Magnum Photos


親ISISとの疑念も

 国際移住機関(IOM)によれば、14年1月から15年8月までにイラク国内で避難生活を送る人は約320万人。その40%以上の130万人はアンバル州の住民だ。彼らの大半は貧しく、欧州を目指す余裕などない。仕事や学校に通えず、生活を再建するすべもなく2年以上避難している人々も少なくない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中