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アベノミクスは敗北か「転進」か?円高が告げるインフレ目標の終焉

2016年5月17日(火)16時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

 第二次大戦中、日本軍は敗北して退却するとき、それを「転進」と発表したものだ。今回の円高で、インフレ目標は実現不可能、というか、日銀がメンツにこだわってごり押しすると、害のほうが目立つことになる。インフレ目標の根底にある、「価格上昇期待をあおって企業の投資意欲をかき立てる」という奇妙な理論は、プリンストン大学のポール・クルーグマン名誉教授らが提唱したもの。今やこの理論は方々で疑問視され始め、クルーグマンも3月に来日したときには安倍晋三首相に「金融政策は財政政策の助けを必要とする」としゃあしゃあと述べている 。

 本来ならば、安倍政権はインフレ目標がうまくいっていない責任を問われるところだが、今回の円高は神風のように作用する。アベノミクスは失敗したのでなく、想定外の激しい円高を受けて、金融政策偏重から財政支出拡大による需要創出へと「転進」するのだ。伊勢志摩サミットは、その「転進」発表には格好の舞台。世界経済を救うため、G7諸国の総意を受けて日本は転進する。

 さらに言うなら円高は、熊本地震で見送られた早期総選挙を蒸し返す大義名分も提供する。円高不況を防ぐため消費税再引き上げの棚上げも含め、「転進」について国民の信を問う、「アベノミクス2・0」に踏み出す、というわけだ。

 災いを転じて福となす。それができれば、安倍晋三という人物は、本当についている。

[2016年5月17日号掲載]

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