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米中関係

米爆撃機が中国の人工島上空を飛んだことの意味

2015年12月28日(月)15時45分
小原凡司(東京財団研究員)

 そして、ヘーゲル前国防長官もが、米国メディアのインタビューの中で、オバマ政権のシリア政策やホワイトハウスの安全保障チームの弱腰を批判した。ヘーゲル氏が批判したのは、シリア政策についてであるが、国防総省の批判は、軍事力の使用を躊躇するオバマ大統領の安全保障政策全般に向けられている。

 オバマ政権を批判したのは、ヘーゲル氏だけではない。ヘーゲル氏の前に国防長官を務めたゲーツ、パネッタ両氏も、退任後にオバマ政権を批判している。ヘーゲル氏の前々任者のゲーツ氏は、戦略のなさを指摘したし、その後任のパネッタ氏も「米国の影響力や国益を確保する態勢を作ることが二の次になっていた」と批判した。

 イラク及びアフガニスタン両戦争を終結させて米軍を撤退させることを公約に掲げ、米国内の厭戦気分に押されて大統領に就任したオバマ大統領が、他国への軍事的関与をただ減らそうとしてきたことへの批判である。

中国とオバマ両方に圧力をかけたB-52

 国防長官が3代連続で政権を批判するのは異例だ。オバマ大統領と国防総省の溝の深さを示すものでもある。さらに両者の溝を深めているのは、オバマ大統領の側近重視の姿勢であると言われる。国防総省は、オバマ大統領が自分たちの意見を聞かず、ごく限られた仲間だけで政策を決定していると考えている。

 軍事力を行使しないことによって米国が世界各地で影響力を低下させている状況に国防総省がいかに危機感を募らせても、側近以外の意見を聞かないオバマ大統領を動かす方法は多くはない。

 オバマ大統領の承認が必要な「航行の自由」作戦のさらなるステージ・アップは難しいとしても、「誤って」入ってしまったのなら仕方がない。B-52の飛行は、オバマ大統領の指示によるものではないにしても、国防総省あるいは太平洋軍が、中国とオバマ大統領の双方に圧力をかける目的で行った、と考えるのは邪推だろうか。

 いずれにしても、中国は、米国からの圧力は軽減しなければならない。米国に対して、譲歩しなければならないのだ。オバマ大統領は言うだけで何もしない、と見くびっていたが、当ては外れたのである。オバマ大統領の承認がなくとも、米軍の艦艇あるいは航空機が、南シナ海において中国が主権を主張する海域あるいは空域に進入することがあり得るとわかったからだ。

 中国にしてみれば、計画された作戦であるかどうかよりも、「米軍の主権侵害に対して中国が何もできない」と国内で批判されることが問題なのである。

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