最新記事

宇宙開発

宇宙での「中国外し」は限界

NASAが中国と協力することは禁じられているが、存在感を強める中国を無視し続けるのは難しい

2015年12月9日(水)17時00分
デービッド・ボロズコ

フロンティアへ 打ち上げ前の宇宙船「神舟10号」と「長征2号F」ロケット(中国・甘粛省の酒泉衛星発射センター) Stringer-REUTERS

 宇宙を舞台にした最近の大作映画『ゼロ・グラビティ』(13年)と『オデッセイ』(15年)の共通点にお気付きだろうか。それは、ピンチに陥ったアメリカ人宇宙飛行士が中国に助けを求めるという設定だ。

 昔なら現実離れしたストーリーに思えただろうが、今は違う。中国は宇宙開発大国として急速に台頭しつつある。

 中国がフロンティアのそのまた先を目指すのは、最近に始まったことではない。かつて中国人は世界で最も意欲的な探検家だった。空の星を頼りに航海に乗り出した明の時代の探検家である鄭和は、コロンブスより早く北米大陸に到達し、マゼランより早く世界一周を成し遂げた可能性もある。中国は再びフロンティアに挑み始めた。今度は空の星に頼るのではなく、そこに到達することを目指している。

 中国は来年、アメリカのアレシボ天文台(プエルトリコ)を上回る世界最大の電波望遠鏡を完成させる予定だ。世界最大の太陽望遠鏡の建設も計画している。その大きさは、アメリカが現在ハワイに建設中のものの倍近くに達する。

 先月には独自の火星探査機をお披露目し、来年には宇宙ステーション「天宮2号」を打ち上げる。22年頃には有人宇宙ステーションを稼働させたいと、中国当局は考えている。

 中国の宇宙開発に対するアメリカの姿勢は一貫しない。9月には、米国務省と中国国家航天局が民生部門の宇宙対話を始めたが、NASA(米航空宇宙局)とホワイトハウスの科学技術政策局(OSTP)は現在、連邦政府の資金を使って中国の政府および企業と協力することを一切禁じられている。中国政府関係者をNASAの施設内に通すこともできない。

 禁止措置は一時的だと、NASAのチャールズ・ボールデン長官は述べている。「有人宇宙飛行を望む国はどこであれ、人員を宇宙に送り込んでくれる国があるのなら、いかなる国の力も借りる」というのが理由だ。

コストという「共通の敵」

 近く、中国がその国になるかもしれない。中国は宇宙開発で目覚ましい前進を遂げてきたし、そのことに誇りを感じてはいるものの、20世紀の米ソの宇宙開発競争と違ってライバルへの激しい敵意は抱いていない。中国人初の宇宙飛行に成功した楊利偉(ヤン・リーウェイ)は、宇宙船内で中国国旗と国連旗を一緒に掲げた。

 中国はこれまで、ブラジル、ドイツ、フランス、イタリア、ロシア、スウェーデン、欧州宇宙機関(ESA)と協力してきた。嫌でも目につくのは、アメリカが含まれていないことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳会談「準備最終段階」とロシア有力議員、中東

ビジネス

米新規失業保険申請、1.1万件増の21.9万件 小

ビジネス

英中銀、政策金利0.25%引き下げ インフレ上昇と

ビジネス

海運マースク、25年は輸送量4%増と予想 関税と紅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 7
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 8
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 9
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 10
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 7
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 10
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中