【地図で読む】この宗教地図が間違っている4つの理由
どの宗教にも多様な宗派があること以外にも、複雑な宗教の実態を地図に表すのが難しい現実がある
例えば、テロ組織のISIS(自称イスラム国、別名ISIL)はイラクとシリアにまたがる地域を支配し、シリア難民はヨーロッパだけでなく、隣国のトルコ、レバノン、ヨルダンにも多く逃れている。例えば、米軍の駆逐艦派遣により米中の緊張が高まっているのは南シナ海で、そこでは中国以外にも、ブルネイ、フィリピン、マレーシア、ベトナムが領有権を主張している。
そういったニュースを聞いても、ピンとこない人は少なくないだろう。シリアは中東のどのあたりにある? 南シナ海はどこからどこまでを指す? 日々流れてくるニュースは膨大だし、世界はあまりに複雑だ。いかに大切でも、「世界の今」を理解するのは簡単ではない。
そんなときに役立つのが、地図だ――。フランスの人気TV番組から生まれた『最新 地図で読む世界情勢 これだけは知っておきたい世界のこと』(鳥取絹子訳、CCCメディアハウス)は、その名のとおり、地図を軸に据えた入門書。フランス地政学の第一人者であるジャン=クリストフ・ヴィクトルと、高校(リセ)の地理・歴史教師であるドミニク・フシャールおよびカトリーヌ・バリシュニコフが、美しい地図と写真でわかりやすく解説している。
移民や難民、貧困ライン、温室効果ガス、ジェネリック医薬品、スラム街、デジタル・ディバイド、多国籍企業、マイクロクレジット、生物多様性......。「世界のしくみがひと目でわかる!」と謳い、50以上の地図を収録した本書から、5つのテーマを抜粋し、5回に分けて掲載する。
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『最新 地図で読む世界情勢
――これだけは知っておきたい世界のこと』
ジャン=クリストフ・ヴィクトル、ドミニク・フシャール、
カトリーヌ・バリシュニコフ 著
鳥取絹子 訳
CCCメディアハウス
※第1回【地図で読む】サッカーもジーンズも、グローバル化でこう変わった:はこちら
※第2回【地図で読む】18歳以下の「子供兵士」は世界に約25万人いる:はこちら
※第3回【地図で読む】国際的な移民の数は世界人口の3%にすぎない:はこちら
《人は、お互いが違いすぎるときに、最も共通点を見出すものだ》――ブレーズ・サンドラール[20世紀のスイス出身のフランスの詩人、小説家]
宗教は地図にできるのか?
<上の地図 複雑な現象に対して単純すぎる地図>
この地図は世界の宗教の分布を示すものとして普通に使われているものだが、しかしこれは間違っている。実際、宗教を地図にするのは難しい。というのも、単純化することで大きな間違いをおかすことになるからだ。
[1番目の理由]
同じ宗教の国をまとめて同じ色にしてしまうと、地図ではどの国も同じという印象を与えてしまう。ところが、同じ宗教の国でも、ある国では国民がその宗教を非常に熱心に実践しているのに対し、すぐ隣の国ではその宗教がたんなる文化遺産だったりする。たとえば、洗礼を受けた人はすべてカトリック教徒として数えられているのだが、そのなかのかなりの人は実践していない。
[2番目の理由]
国に色をつけるとき、人口密度を考慮せず、全土を同じ色にしている。たとえば、アフリカ大陸の北半分はイスラム教を示す同じ色になっているが、このなかにあるサハラ砂漠にはほとんど人が住んでいない。したがって、地図では実際とは違ってイスラム教徒が多くいるように見える。
[3番目の理由]
どの宗教も多様に枝分かれし、そこでまた変化して、違う宗派間での争いも多い。たとえばイスラム教をすべて同じ色にすると、スンニ派とシーア派の大きな違いや、この2 大宗派にもいろいろな学派があることがわからない。しかも、各学派は実践の仕方も違えば、その学派が発展した社会の仕組みも違い、学派同士で紛争していることもある。
[4番目の理由]
一つの色が示すのは「多数派」の宗教だけである。そうなると、少数派やアニミズム信仰、あるいはたんに無宗教の人たちは地図からはわからないことになる。