最新記事

人権問題

イスラエルが考え出した新たな「拷問」

「ハンストは自爆テロ」と、食べない囚人に無理やり食べさせる法案を審議中だが

2015年7月1日(水)18時43分
アリス・ミリケン

正義を イスラエルの刑務所に収監されたパレスチナ人 Nir Elias-REUTERS

 イスラエルで今、囚人たちに強制的に食べ物を摂らせる法案が審議されている。狙いはハンガーストライキを阻止することだ。

 一見、人命を救う行為ともいえそうだが、パレスチナ囚人協会のカドゥラ・ファレスは猛反発。イスラエルは囚人たちに残された最後の非暴力的抗議手段を奪うつもりだと、ワシントン・ポスト紙に語った。医師たちも、非人道的で倫理に反するとして、法が執行されても従わないと声を上げている。

 法案が成立すれば、こうなる──。

 囚人が死に瀕していたり、自らの体に致命的なダメージを及ぼしていると判断された場合、医師が囚人に強制的に食べさせる。過去の例だと、鼻に入れたチューブで食物を流し込むのが一般的だ。

行政拘束vs.ハンストによる釈放

 今年4月には、パレスチナ人の囚人300人近くが参加する大規模なハンストが始まった。イスラエル政府の「行政拘束」に抗議するためだ。行政拘束とは、裁判も起訴状も、ときには説明すらなく、国家にとって危険だと見なされた人物を逮捕・拘束できる制度。

 ハンストを行う有名なパレスチナ人の一人がハデル・アドナンだ。この5年で9回、行政拘束により収監され、7月12日には55日間のハンストの末に釈放される予定だ。前回は2012年2月、66日間のハンストを経て釈放されている。

 アドナンはハンストによる衰弱で何度も入院しているが、強制的な食物投与をされたことはこれまで一度もなかった。

 今回の法案に対し、イスラエルとヨルダン川西岸の人権運動家たちは拷問と同じだと非難。アメリカを本拠とする「人権のための医師団」は、イスラエル議会に法案否決を呼びかけ、「医療従事者を人権侵害と拷問の手先にするな」という声明を出した。

 だが、イスラエルのギラド・エルダン国内治安相は、法案は政府にとって必要な対抗手段だと主張する。「囚人たちはハンストという自爆テロでイスラエル国家に脅かしている。我々は脅迫を容認しないし、囚人を刑務所で死なせもしない」

 法案は採択までに、イスラエル議会であと2度の審議を通過しなければならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイスが過剰規制ならUBSは国外撤退も、銀行協会が

ワールド

モスクワに過去最大の無人機攻撃、1人死亡 航空機の

ワールド

米でイスラム教徒差別など増、報告件数が過去最多=権

ビジネス

午後3時のドルは147円前半で売買交錯、一時5カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 2
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 3
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 4
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 5
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 6
    「中国の接触、米国の標的を避けたい」海運業界で「…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    「汚すぎる」...アカデミー賞の会場で「噛んでいたガ…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 8
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中