最新記事

テロ組織

落日のアルカイダは聖戦界のマイクロソフト

劣勢のアルカイダからアルヌスラ戦線も離脱か。幹部が戦死し、新戦闘員も確保できない「老舗」の悲哀

2015年3月13日(金)15時42分
ジャック・ムーア

老朽化 アルヌスラが抜ければアルカイダ系で最大の組織は「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」に(写真はAQAPの幹部) Khaled Abdullah-Reuters

 シリアのイスラム教スンニ派武装勢力「アルヌスラ戦線」が、アルカイダとの同盟関係に終止符を打つつもりらしい。テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の台頭により、世界のジハード(聖戦)ネットワークにおけるアルカイダの影響力は弱まる一方だからだ。

 情報筋によれば、アルヌスラの指導部はアサド政権打倒の戦闘を拡大するために、カタールなどペルシャ湾岸の主要国から資金援助を受けられるような新グループの設立をもくろんでいるという。

「新しい組織は間もなく誕生する。アルヌスラ戦線に他の小さな勢力がいくつも合流するだろう」と、アルヌスラと近い関係にある人物はロイター通信に語った。「組織名からアルヌスラの名前は外され、アルカイダとの関係も断つ。ただし指導部内で全員が合意しているわけでないため、発表は遅れている」

 カタール政府の関係者は匿名を条件に、アルヌスラ戦線がアルカイダ系から離脱すれば、資金と物資を提供すると約束したことを明かした。

 アルカイダにとっては、アルヌスラ戦線の離反はISISとの覇権争いでさらに大きく水をあけられることを意味する。「地元住民との関係を築くという長期的視点に基づくアルカイダの戦略は失敗であり、ISISの(残虐な)やり方のほうが有効だという証明になるだろう」と、地政学的リスク分析のコンサルティング会社マックス・セキュリティー・ソリューションズの上級アナリスト、マイケル・ホロウィッツは言う。

 湾岸諸国から経済支援を受ければ、アルヌスラ戦線はシリアでの影響力を増し、アサド政権のみならず、ISISにも対抗し得るようになるかもしれない。そう主張するのは、ノースイースタン大学の助教(政治学)で、外交問題評議会のメンバーでもあるマックス・エイブラムズだ。「湾岸諸国から資金援助を受けられるようになれば、アルカイダの報奨金は目じゃない」

「老朽化するブランドだ」

 アルカイダに背を向け始めているのは、アルヌスラ戦線だけではない。エジプト・シナイ半島を拠点とする過激派組織「エルサレムの支援者(ABM)」など、かつてはアルカイダに触発されていた勢力が今ではISISに忠誠を誓うようになっている。

 アルカイダ弱体化の契機となったのは、11年5月のウサマ・ビンラディンの殺害だろう。それから4年近くがたった今、外交政策研究所の上級研究員クリント・ワッツは、アルカイダをジハード界の「マイクロソフト」と表現する。「ビッグネームだが老朽化しつつあるブランドだ。18〜35歳の戦闘員が驚くほど少ない」

 13年前後にアルカイダの幹部たちが、アフガニスタンとパキスタンの国境地帯で米軍のドローン(無人機)によって相次いで殺されたことも痛手だった。以来、新たな戦闘員の勧誘がままならず、攻撃力も失っていると、米国務省は昨年4月に公表した報告書で指摘した。

 昨年9月には、アルカイダ最高指導者のアイマン・アル・ザワヒリが「インド亜大陸のアルカイダ」の創設を発表したが、活動は報告されていない。

 アルヌスラ戦線はシリアにおける最も有力な過激派組織ではないが、国連関係者や外国人ジャーナリストなどの拉致事件で知られる勢力だ。アルヌスラを失えば、アルカイダの求心力は回復不能なところまで落ちるかもしれない。

[2015年3月17日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送-バイデン政権の対中関税引き上げ不十分、拡大す

ワールド

ジョージア議会、「スパイ法案」採択 大統領拒否権も

ビジネス

米ホーム・デポ、売上高が予想以上に減少 高額商品が

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中