最新記事

ブラジル

W杯を脅かす若者たちの怒り

車を壊しタイヤに火を付ける過激派グループ、ブラック・ブロックは何者か

2014年6月4日(水)15時23分
ヨアン・グリロ

発祥はドイツ サンパウロの反W杯デモに集まった若者たち Paulo Whitaker-Reuters

 マスクやバイクのヘルメットで顔を隠した集団が車を破壊し、警官にレンガを投げ付け、タイヤに火を付ける──。6月12日にワールドカップ(W杯)の開幕を控えたブラジルのサンパウロやリオデジャネイロでは、そんな光景が繰り返されている。

 警察当局によれば、彼らは「ブラック・ブロック」という過激派グループだ。しかし、取材に応じたサンパウロのAMと称する32歳の人物は、ブラック・ブロックは組織の名称ではなく怒れる若者たちのデモ戦術だと語る。「ブラジルのスラムでは前からあった暴力行為が都市の真ん中に出てきたんだ」

 ブラック・ブロックのデモ参加者の多くは左派でも右派でもなく、現在の「システム」全体に反対していると、AMは言う。

 ブラジル政府はW杯に117億ドルもの大金をつぎ込む一方で、荒れ果てた学校や病院は放置していると、AMは怒る。だが同時に、反W杯デモは世界的な運動の一部だとも考えている。「代議制民主主義はもはや誰も代表していない。街頭で圧力をかけなければ、政治的な力にならない」

 この戦術が誕生したのは1980年代のドイツ。警察と対峙した反原発派や不法占拠者が暴徒化したのがきっかけだ。その後、00年前後の反グローバル化運動にも取り入れられ、ブラジルでは13年、公共交通機関の値上げに反対するデモで注目されるようになった。

 運動の主力は10代から20代前半の若者たちで、中流や中流下層の出身者が多い。「新しい世代はすごく過激だ」と、AMは言う。「まともな仕事も子供も責任もないから、警察と正面からやり合うことを恐れない」

 W杯期間中の暴動は、再選を狙うルセフ大統領にとって大きな痛手になる。もっとも、デモ参加者の多くは野党を含む全政党に非難の矛先を向けている。
 
「若者たちはすべての政治家に失望している」と、社会学者のエステル・ソラノは指摘する。「既存のシステムにはうんざりしているが、新しいシステムはまだできていない」

From GlobalPost.com特約

[2014年6月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中