最新記事

外交

イラン新大統領は「穏健派」?

国連総会で注目を集めたロウハニ大統領だが、肝心の核開発問題での譲歩は微妙

2013年9月26日(木)16時59分
デービッド・トリフノフ

期待と失望 総会演説を終えたロウハニには賛否両論が Eduardo Munoz-Reuters

 8月に就任したイランのハサン・ロウハニ大統領が、ニューヨークで開催中の国連総会で初の演説を行った。ロウハニは暴力行為と過激主義との対決を世界に呼び掛け、自国の核開発をめぐる欧米との協議に意欲をみせた。

「世界の人々は戦争にうんざりしている。今はまたとないチャンスだ」と、彼は述べた。「イラン・イスラム共和国は、すべての課題がうまく解決されると信じている」。ロウハニはさらに、イランが国際社会から対等の立場で扱われるべきだとも主張。アメリカ政府の「矛盾のない考え」を期待するとした。

 79年の在イラン米大使館占拠事件の後、アメリカはイランとの国交を断絶。近年では、イランの核開発をめぐりが対立が続いている。ロウハニは演説で、イランの核開発は平和利用が目的であり、そこに大量破壊兵器が存在する余地はないと主張。ただし、核開発について協議するにはウラン濃縮を行う権利が保証されるなどの条件があるとも語った。

 長年イランで取材を続け、現在はニューヨーク・タイムズ紙のテヘラン支局長であるトーマス・アードブリンクによれば、ロウハニはイランとアメリカを分断している問題についてアメリカから譲歩を引き出したいと思っている。

アハマディネジャドの過激路線と決別

 ロウハニが大統領に選ばれた時、イラン国民がマフムード・アハマディネジャド前大統領の過激な主張に背を向け始めた証拠だと、世界の評論家らは考えた。「アハマディネジャドの2期目には経済が悪化し、政権中枢に派閥争い広がった。同じ道をたどる危険は冒せないとイランの政界エリートたちも理解した」と、英ガーディアン紙は書いている。今では多くの人が、ロウハニがイランを穏健路線に導き、欧米との対話を進展させるだろうと考えている。

 アハマディネジャドが国連総会で演説する際には、欧米諸国の代表団が途中退席することも珍しくなかった。しかし今回、ロウハニの演説は総会のハイライトとみなされた。ただ終わってみれば、期待と同じくらいがっかりさせられた人もいた。英語の通訳がひどかったという批判もあれば、先に登場したバラク・オバマ米大統領の演説に応えた、政治的な演説にすぎないとの指摘もあった。

 オバマは演説で、イランとよりよい関係を築くことを望んでいる、核問題について「有意義な合意」に達することは可能だと述べた。「この困難な歴史を一晩で克服できると思わない。疑念はあまりに深いからだ」「だがイランの核開発問題を解決できれば、これまでとは違い、相互の利益と尊重に基づいた関係に向けた大きな一歩になる」

 オバマとロウハニの会談が行われるとの観測も出ていたが、「国内に複雑な問題がある」としてイラン側から断ったようだ。ジョン・ケリー米国務長官と、イランのジャバド・ザリフ外相の会談は26日に予定されている。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、総裁「状況は正しい方向」 利

ビジネス

FRB「市場との対話」、専門家は高評価 国民の信頼

ワールド

ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではな

ワールド

英世論調査、労働党リード拡大 地方選惨敗の与党に3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中