最新記事

核実験

北朝鮮に「ムチ」を振るう中国新指導部の真意

ミサイル発射を非難する安保理決議を支持習近平体制は国際社会と協調するのか

2013年2月8日(金)12時42分
ジョエル・ウスナウ(中国アナリスト)

関係に変化? 中朝国境の都市・新義州の鴨緑江沿岸に停泊する北朝鮮船舶の国旗 Jacky Chen-Reuters

 先週、国連安全保障理事会は事実上の長距離弾道ミサイルを発射した北朝鮮に対する新たな制裁決議を採択した。意外なことに、これまで何かと北朝鮮に甘かった中国も賛成に回った。

 北朝鮮に核不拡散の国際ルールを守らせるためなら「ムチ」の使用も辞さないという、新指導部の意思を示す重要なサインだ。ただし、決議の精神と制裁規定を中国自身が遵守するかどうか、アメリカをはじめとする国際社会はしっかりと監視していく必要がある。

 中国が賛成した今回の決議は、昨年12月のミサイル発射を非難するとともに、北朝鮮の一部団体と個人を制裁対象に加える内容になっている。06年に同様のミサイル発射実験が行われた後の安保理決議は、中国などの反対で制裁措置が盛り込まれなかった。

 09年のミサイル発射に対しては、中国は単なる「衛星の打ち上げ」だと主張。決議より弱い議長声明を支持しただけだった。10年には韓国の海軍哨戒艦「天安」の沈没事件と延坪島への砲撃事件が発生したが、中国は安保理決議の採択に反対し、国際社会を失望させた。

 確かに今回も中国は、北朝鮮の経済に大きな影響が及ばないように決議の内容を弱めようとした(スーダンやイランに対しても、中国政府は通常の貿易関係を損ねてはならないという立場を取っている)。

 それでも今回の決議の意味は大きい。中国の李保東(リー・パオドン)国連大使は採択後、この決議が「思慮深く慎重、適度で安定に寄与する」ものであるべきだという声明を読み上げた。

 中国の決議賛成は、3月に国家主席に就任する習近平(シー・チーピン)共産党総書記を中心とする新指導部の外交方針をうかがわせる重要なヒントとみていい。国際的な安全保障を大きく左右する問題では国連安保理が一定の役割を果たすべきだと、新指導部は考えているようだ。

経済関係見直しの可能性

 さらに具体的に言えば、「アメとムチ」を組み合わせて朝鮮半島の非核化を目指す国際社会の努力の一環として、強制措置を支持するということだ。国連決議に反発した北朝鮮は3度目の核実験を行うと宣言した。だが北朝鮮の挑発がもたらす不安定化のリスクよりも、限定的な制裁措置がもたらす利益のほうが大きいと、新指導部は判断しているらしい。

 ただし、北朝鮮との経済関係を重視してきた姿勢を根本的に見直すかどうかは不透明だ。ある観測筋が指摘するように、北朝鮮にとって中国は「第1の、そして最後の頼みの綱」だ。最近では国境付近に「経済特区」を設立し、中国からの投資を受け入れている。

 国連決議の精神と加盟国への要請を中国が遵守するかどうか、国際社会は問い続ける必要がある。過去の決議については、制裁規定を守っていたかどうか疑わしい。昨年には、北朝鮮がミサイル発射システムを中国企業から輸入したという疑惑が持ち上がった。

 今回の決議はこの問題を考慮したようだ。最終的な受取人が国連の制裁対象に含まれると信じる「合理的根拠」がある場合には、加盟国に北朝鮮への製品輸出を禁じるとしている。アメリカと国際社会はこの規定の遵守を中国に迫り、増え続ける複雑な中朝間の貿易が核拡散につながらないよう目を光らせるべきだ。

 中国の決議賛成は明るい兆候だ。新指導部は北朝鮮のルール違反に罰を与えようとする国際社会の動きに加わる意思を示した。だが決議を意味あるものにするためには、中国自身がルールを遵守しなければならない。

[2013年2月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ブラジル経済活動指数、第1四半期は上昇 3月は低下

ビジネス

マイクロソフト、中国の従業員700人超に国外転勤を

ワールド

アルゼンチン、4カ月連続で財政黒字達成 経済相が見

ワールド

トランプ氏、AUKUSへの支持示唆 モリソン前豪首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 7

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中