最新記事

サイエンス

「女は男より運転が下手」は性差別か

車の運転が下手でも簡単に入れられる「女性向け駐車スペース」がドイツで登場し、性差別論争を巻き起こした

2012年12月26日(水)14時59分
マルセル・フリードマン

思いこみ? 男性より車庫入れが下手だと考えている女性は多いが bigstockphoto

 無数の車が行き交う大都会では、駐車スペースをめぐる争いは日常茶飯事。しかし、ドイツ南西部の田舎町で起きた駐車場騒動は、それとは一味違う。

 事の発端は、黒い森地方の小さな町トリベルクのガルス・ストロベル町長が、新設の駐車場に「難易度」に応じた男女別の駐車スペースを設置したこと。

 照明が明るく、広々とした出口付近の12台分は、運転が苦手とされる女性専用。一方で、柱と壁の間にバックで駐車しなければならない2台分の変形スペースは男性専用となった。

 この計画が発表されると、即座に怒りの大論争が巻き起こった。ドイツ国内はもちろん国外のメディアからも「性差別者の駐車場」との非難が殺到した。

 しかし、ストロベルは気にする様子もない。批判の声を「政治的な正しさに縛られてユーモアを理解しない反応」と切り捨て、「わが町に来て私が間違っていると証明して」みせるよう呼び掛けた。おかげで、トリベルクには車庫入れの腕を試したいやじ馬が押し寄せているという。

 町長の話題づくりに加担したくはないが、この騒動がある問いを投げ掛けているのは事実だ。女性は本当に男性より駐車が下手なのか、という問題だ。

 科学的には、イエスと断言することはできない。むしろ、反対の結果を示す研究もある。

自信のなさが女性の弱点

 イギリス最大の駐車場運営企業ナショナル・カー・パークスは、自社の駐車場で男女2500人の運転技術をひそかに評価した。すると20点満点のうち女性は平均13・4ポイントで、男性の12・3ポイントより高かった。後進駐車でも、女性のほうが男性より高得点だった。

 駐車に要する時間は男性より5秒長かったが、より簡単な前進駐車でなく後進駐車を選んだ人の割合は女性が11%高かった。5秒の差は運転スキルというより、丁寧さの違いのようだ。駐車スペースの中央に車を寄せる人の割合は女性は53%に達したが、男性はわずか25%だった。

 一方、逆の結果を示す研究もある。ドイツのルール大学ボーフム校の調査では、男性は女性より迅速に適切な位置に駐車できたという。車庫入れのように頭の中で物体の回転を想像する能力が必要な動作では、男性のほうが空間認識能力がやや高いとする研究もある。

 運転免許試験の結果にも、男女の差が明確に表れている。イギリスの11年の統計では、後進駐車の「コントロール欠如」が原因で運転免許試験に不合格になった女性は4万863人。一方、男性は1万8798人だった。

 もっとも、だからといって女性の運転能力が生まれつき劣っているとは限らない。むしろ、女性は運転が下手という固定観念に惑わされて自信を失っている場合が多いようだ。

 ナショナル・カー・パークスの調査では「自分は大半の男性より車庫入れがうまい」と答えた女性は回答者の5分の1以下。別の実験では、女性に自信を与えて固定観念を取り除くと、運転スキルが顕著に向上した。

 そもそも、ひとたび路上に出れば男性ドライバーのほうがずっと「危険」だ。アメリカでは死亡・重傷事故の8割は男性が引き起こしたもの。飲酒運転をする男性も女性の3倍に上る。

 ハンドルを握る女性は、駐車場の柱よりも男性ドライバーを警戒したほうがよさそうだ。

© 2012, Slate

[2012年12月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、メキシコとカナダに25%の関税課す トランプ氏

ワールド

ガザ再建に10─15年、「何も残っていない」=米政

ビジネス

米国株式市場=反発、企業決算を消化 テスラなど高い

ワールド

ブラックボックスの回収まだ、米旅客機と軍ヘリ空中衝
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中