【先進医療】遺伝子解析の進歩が変えた「がん治療の新常識」...驚異のパラダイムシフトに迫る

THE AGE OF GENETIC SEQUENCING

2025年1月30日(木)19時41分
アレクシス・カイザー(ヘルスケア担当)
「遺伝子解析」の進歩が変えた...がん治療の常識の驚異的パラダイムシフトに迫る

全ゲノム解析は特定の希少癌患者にとって希望の星。研究所で希少な病気を特定する例も増える一方だ YUICHIRO CHINO/GETTY IMAGES

<わずか数日で人間の全ゲノム配列を読み取れるようになる―。全ゲノム解析により、希少な癌(がん)にも適切な治療法が選べるようになった。それでも依然として、残されている課題とは?>

多くの癌患者と同じく、ジャズピアニストのマイケル・ウルフも救いを求めていた。だが、2015年当時の状況は絶望的だった。リンパ腫の治療を何年続けても演奏活動への復帰はかなわなかった。

妻はニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリング癌センター(MSK)にセカンドオピニオンを求めるべきだと訴えた。

MSKの医師たちはウルフがリンパ腫ではなく、組織球性肉腫であることを突き止めた。アメリカでの罹患者は年に約300人という、珍しい血液の癌だ。


ウルフは、肉腫の専門医で医薬品開発の専門家メリナール・ガウンダーを紹介された。今は友人である2人によれば、最初の会話はこんな感じだった。

「この病気の診察経験が最も豊富な医師に診てほしい」と、ウルフが伝えると、ガウンダーは言った。

「私が一番多く診ている」

「何人?」

「10人」

ウルフはその10人がどうなったか聞かなかった。専門医もこの希少な癌をよく知らないことが分かったからだ。だが、ガウンダーにはある考えがあった──ウルフの遺伝子が答えを教えてくれるのではないか?

当時、遺伝子情報解析(シーケンシング)は新しい技術で、「SF作品のようなものだった」と、ガウンダーは言う。検査の結果、最近になって肺癌との関連が判明した変異が見つかった。

ガウンダーは、ある種の悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として認可済みのメキニストという錠剤が有効ではないかと考えた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏当局、ディープシークに質問へ プライバシー保護巡

ビジネス

ECB総裁、チェコ中銀の「外貨準備にビットコイン」

ビジネス

米マスターカード、第4四半期利益が予想上回る 年末

ワールド

米首都近郊の旅客機と軍ヘリの空中衝突、空域運用の課
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中