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北朝鮮外貨獲得の切り札、万景峰号クルーズのお粗末
金正日が外国人観光客向けに始めた「豪華客船の旅」は、驚くほどチープで辛いことばかり
改装した万景峰号で 海を越えてくる脱北者の旅に比べればはるかに「豪華」には違いないが Carlos Barria-Reuters
貧困にあえぐ北朝鮮にとって、外貨をもたらす外国人観光客はカネのなる木。彼らを呼び込む新たな目玉として、このほど北朝鮮北東部の港町・羅先から景勝地の金剛山までを周遊する東海岸クルーズツアーが始まった。
クルーズに使われるのは、日本への運行を禁止されている貨客船「万景峰号」。簡単な改装工事を施され、今月初めに初の試験航海に出発したが、米ニューヨーク・タイムズ紙が報じた通り、その中身は「豪華客船で過ごす贅沢バカンス」とは程遠いものだった。
薄暗く、かび臭い客室に200人以上が詰め込まれ、なかには床にマットレスが置かれただけの部屋に8人が押し込まれるケースもあった。中国人旅行者とビジネス客が、北朝鮮の政府関係者や外国人ジャーナリストと同じ部屋をシェアしていた。
21時間かけて東海岸沖を南へ下ったが、海岸線が見えることはほとんどなかった。船旅の定番「シャッフルボード」のような気の利いたレクリエーション施設もなく、中国人乗客はトランプを広げはじめた。
出航地である羅先市のホァン・チョルナム副市長は、海軍の制服から緑のポロシャツに着替え、甲板で外国人乗客とビールを飲んでいた。あるアメリカ人がホァンに、船が公海上に出て外国の海軍と遭遇することはないかと尋ねた。
「ここは北朝鮮の領海内ですから、まったく安全です」と、ホァンは答えた。「朝鮮人民軍が皆さんを守っています」
観光は経済制裁の対象外
被害妄想にとらわれて世界に背を向ける北朝鮮が観光に力を入れるとは意外に聞こえるかもしれないが、実は北朝鮮にとって観光業はうってつけの産業だ。理由の1つは、観光が金政権に課された経済制裁の対象外だから。しかも、北朝鮮にしてみれば、どの国の外貨でも喉から手が出るほど欲しい。
だが、多くの外国人ジャーナリストを乗せた初航海の評判は散々。英デイリー・メール紙は、「史上最も贅沢じゃないクルーズ」とこき下ろした。
旅行サイト「ジョーンテッド」に掲載された体験記からも、極めて印象的な旅だったことがわかる。
万景峰号でクルーズしたい? それなら様々な困難を覚悟しよう。出発地は、ロシアとの国境に近い町の泥だらけの波止場。携帯電話は持ち込めない。共有スペースに置かれた粗悪品のマットレスで眠り、乗客が甲板にたどり着く前に風で吹き飛ばされてしまいそうなプラスチック製の椅子に座って日光浴をする。これがクルーズだって?
折りしも今週、子供3人を含む9人の脱北者が石川県能登半島沖で保護されたばかり。「北朝鮮での生活が苦しかった」から脱北したと語ると9人の過酷な「船旅」に比べれば、万峰景号の旅は十分に贅沢かもしれないが。