注射1本で効き目10年の男性用避妊法
コンドームもパイプカットもいらなくなる画期的避妊法が、人口増加に悩むインドで完成間近
生殖革命 子供が欲しくなったらまた注射1本で生殖能力を取り戻せる Jayanta Dey-Reuters
およそ400年前、ある賢人が自分の男性器に羊の腸を被せるというアイデアを思いついた。これがコンドームの始まり。以来、様々な改良が重ねられてきたとはいえ、男性用避妊具は基本的には今も初期の形状を踏襲している。
だが間もなく、男性の避妊法をめぐる常識が一変する日が来るかもしれない。
インド人技術者のスジョイ・K・グハは30年に及ぶ研究の末、生殖技術の世界でピル(女性用経口避妊薬)以来の大革命となりえる画期的な避妊法を完成させようとしている。今回のターゲットは男性だ。
「管理下における精子の可逆的抑制」の略称で「RISUG」と名づけられた新メソッドは、精管にゲル状のポリマーを注入し、精子の細胞膜を破裂させて受精能力を奪うというもの。1回の注射で効果は10年。外科的手術を受けることなくパイプカット(精管切除)と同じ効果を得られるうえに、性欲減退などの副作用もないという。
生殖機能の回復も注射1本で簡単に
それだけではない。猿などを使った動物実験では、別の薬剤を注入することで、簡単に生殖機能が回復することも確認されている。つまり、この方法を使えば、ホルモン剤を使わなくても一時的に生殖機能を停止でき、しかも好きなときに元の機能を取り戻せるのだ。
今も女性の避妊手術が最もポピュラーな避妊法だというインドにとって、この発明は劇的なインパクトをもたらすかもしれない。インドでは、37%の女性がリスクの高い卵管切除手術を受けているのに対し、パイプカット手術を受ける男性はわずか1%。人口を抑制するために男性の手術率を引き上げたい当局は、様々なインセンティブを用意している。ラジャスタン州では、手術を受けた男性は銃のライセンスに加えて、車とオートバイ、テレビまでもらえる。
「体にメスを入れる必要がないのは、RISUGの重要なメリットの1つで、心理的インパクトは大きい」と、グハは言う。「2つ目の利点はもちろん、機能が復活する可能性がある点だ」
RISUGによる避妊法は、まだ商品化には至っていない。だが、長年に渡って人知れず重ねてきた研究は最終段階を迎えている。
アメリカでも使用可能になりそう
新薬開発はすでに人間を対象とした大規模な臨床治験を行う第3フェーズに入っている。被験者らの中には15年間に渡って新薬を問題なく使用している人もおり、早ければ来年にも限定的ながら、一般の使用も認められる見込みだ。ただし、人間の場合にも生殖機能が回復するかどうかはまだ確かめられていない。