最新記事

復興支援

アフガン会議「権限委譲」の危うさ

自立への道筋を高らかに掲げた支援国会議だが、タリバンの勢力拡大から汚職の蔓延まで課題は山積

2010年7月22日(木)18時06分
ロン・モロー(イスラマバード支局長)、サミ・ユサフザイ(イスラマバード支局)

紙の上の成果 左から、国連の潘事務総長、アフガニスタンのカルザイ大統領、クリントン米国務長官(20日、カブールの会議場で) Ahmad Masood-Reuters

 アフガニスタンの復興支援のための大規模な国際会議は1〜2年に1回のペースで開かれているが、近年では形骸化が進んでいた。

 台本は毎回ほぼ同じ。アメリカを始めとする支援国がさらなる援助(過去9年間の拠出総額は約290億ドルに達する)と揺るがぬ支援の姿勢を示す。そして返礼としてアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領はタリバンへの攻勢を強め、援助金をもっと有効に使い、汚職を撲滅し、国民の支持を取り付けるべく行政をきちんと機能させると誓うのだ。

 だが7月20日アフガニスタンの首都カブールで開かれた閣僚級の支援国会議は、過去8回の会議とは一線を画すものになることが期待されていた。そうでないと困る事情があったからだ。

 タリバンの勢いは衰えを知らないようで、これまで牙城とされてきた南部・東部から西部・北部へと勢力を広げている。

 その一方でアフガニスタンに展開する米軍とNATO(北大西洋条約機構)主導の国際治安支援部隊(ISAF)の死者は増え続けている。6月の死者数は過去最悪となり、60人の米兵と40人のISAF兵が命を落とした。アメリカ国内でもアフガニスタン派兵に対する支持は低下しつつあり、ヨーロッパに至っては最低レベルだ。

 つまりカルザイも国際社会も、今回の会議を新たなスタート地点にしなければならないと考えていた。カルザイと支援国の側にも勝ち目はあり、見通しは暗いばかりではない(ベトナム戦争の時の表現で言えば『トンネルの先に光が見える』)ことを示し、もっと前向きなシナリオを描かなければならなかった。

 遠くに見える光はかすかで消え入りそうだったかも知れない。それでもアフガニスタン側の意見調整に当たった同国のアシュラフ・ガニ元財務相は、会議は「大成功だった」と言い切った。

 今回の会議は、カブールで開催された国際会議としては最大級のもの。潘基文(バン・キムン)国連事務総長やヒラリー・クリントン米国務長官を始めとする40カ国の外相ら要人の安全を確保するため、アフガニスタンの治安部隊は首都を事実上封鎖した。目的はカブール周辺で活動している武装勢力による自爆テロを防ぐことだ。

 会議当日は「国民の休日」となり、厳しい警備が敷かれた街中は気味が悪いくらい静かだった。そんな中、あえて外出しようとする市民はほとんどいなかった。

援助金も直接カルザイ政権へ

 会議ではカルザイも支援国も、協力への意志と目的達成への決意をわざわざ表明した。まるで過去数カ月(もしかしたら数年間の)の相互不信を振り払おうとするかのようだった。

 今回の会議でメディアが最も大きく取り上げたのはカルザイの「決意」だろう。演説でカルザイは、アフガニスタンの治安部隊が「14年までに全土で全ての軍事、治安維持の任務の責任を負う」と強調した。

 この拘束力のない公約が実現した暁には、現在アフガニスタンに展開する15万人近い外国の軍隊の大半あるいは全てが撤退にこぎつけるかもしれない。

 このカルザイの決意表明を受けて支援国側は、アフガニスタンの以前からの要求に応じることを約束した。つまり援助金を各省庁や無数の援助団体や復興事業を請け負う外国の企業に流すのではなく、アフガニスタンの国庫に直接入れることにしたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ロブロックス、通期業績見通しを下方修正 株価急落

ワールド

イスラエル、米から数十億ドルの兵器追加確保へ 一部

ワールド

原油先物は上昇、堅調な中国統計と中東情勢巡る警戒感

ビジネス

経産省、AIスパコン整備でソフトバンクに最大421
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 5

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中