最新記事

米ロ関係

ロシアが企てた対米「経済戦争」

2010年2月2日(火)17時00分
ダニエル・ドレズナー(米タフツ大学国際政治学教授)

冷却化する二国間関係への教訓

 これらを総合すると、ロシアのグルジア侵攻はアメリカとの二国間関係に最良の出来事だったのかもしれない(挑発的な意見であることは承知している)。グルジア侵攻は結果的に、ロシアの野心に適度な屈辱を与えたからだ。ロシアの経済成長率と、経済的な自信を高めた商品価格バブルは08年の夏に弾けた。アブハジアと南オセチアの独立承認は、ロシア政府が国内経済の勝ち組と負け組みを高圧的に仕分けたことによって始まった資本流出をさらに悪化させた。この流れは少なくとも、ロシアのエリート層や政策立案者にとって、ロシアが敵意ある政策を続けた場合の代償を示したといえる。

 同時に、グルジア侵攻はアメリカの政策立案者らに、コーカサス地方の共和国と関わる際には、明確な「足かせ」があることをはっきりと理解させた。当時大統領候補だったバラク・オバマは、ロシアに対して「現実主義の国際主義者」という立場で臨むことをはっきりと強調していた。この発言で、ロシアの大国としての地位や、世界の紛争地と関わる際の大国として実用性が承認されたことになる。人権問題や民主化、2国間の経済的な問題を優先的な課題として取り上げるよりも、ロシアの核不拡散や、ならず者国家の封じ込めといった政治問題における大国としての役割をアメリカが重視していることを示した。

 優先事項については議論できるが、全体的に見ると、この政策は上手くいっている。グルジアとの戦争によって、ロシアもアメリカも両国間関係が冷え込んでいくことの代償を理解するに至った。瀬戸際から救われたといえる。

 これは、他の国との二国間関係が思わしくない場合(たとえば米中関係)に、考えてみる価値のある議論かもしれない。
 
Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 2/2/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人

ビジネス

仏ソジェン、第1四半期は減益も予想上回る 投資銀行

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中