最新記事

イギリス

出口の見えない第2の「英国病」

大英帝国から引き継いだ分不相応な繁栄と影響力は失われ、小さな島国に戻るときがやってきた

2009年9月10日(木)16時27分
ストライカー・マグワイヤー(ロンドン支局長)

憂鬱と不満 経済的にも軍事的にも「ミニ超大国」として振る舞う力はもうない Andrew Winning-Reuters

 イギリスは大英帝国の崩壊後も数十年間、国際社会で「ミニ超大国」として振る舞ってきた。経済力、文化的影響力、核保有に裏打ちされた軍事力、そしてアメリカとの「特別な関係」。そのすべてが相まって、この小さな島国に分不相応な発言力を与えてきた。

 だが、時代は変わろうとしている。イギリスは昨年秋の金融危機で手痛い打撃を受け、公的資金による銀行の救済を余儀なくされ、不況の荒波に襲われた。かつて「日の没することなき大帝国」と呼ばれたイギリスだが、これまで生き残っていた帝国的野望にも長く暗い影が差し込んだ。

 イギリスは世界における自国の役割の再検討を迫られている。その答えは小さなイギリス──少なくとも「今よりは小さな」イギリスだろう。

 IMF(国際通貨基金)によれば、イギリスの公的債務は今後5年間で2倍に増え、対GDP(国内総生産)比で100%に達する見込み。英国立経済社会研究所は、イギリスの1人当たり国民所得が08年前半の水準に戻るまでに6年かかると予測する。

ソフトパワーもハードパワーも低下

 その影響は政府の全部門に及びそうだ。国防省と外務省の予算は大幅に削減され、ソフトパワーとハードパワーの両面でイギリスの影響力は低下するだろう。ゴードン・ブラウン首相には、この流れを食い止める手段がほとんどない。この点は、今後10カ月以内に実施される総選挙で勝利を見込む野党・保守党のデービッド・キャメロン党首も同様だ。

 保守党の元党首で「影の内閣」の外相を務めるウィリアム・ヘイグは先日の演説でこう語った。「イギリスがこれまでと同レベルの国際的影響力を取り戻すことは、時間の経過とともにますます困難になるだろう」

 このところのイギリスは逆風にさらされ続けてきた。中国やインドのような巨大新興国の台頭はイギリスの国際的地位を低下させ、アメリカはイギリスとの特別な関係を見直す姿勢を見せてきた。

「ミニ大国」の終焉を決定付けたのがトニー・ブレア前首相の「(アメリカの)51番目の州戦略」だ。ブレアはアメリカの対テロ戦争に全面協力。アフガニスタンとイラクに兵士を派遣した。

 おかげでイギリスは第二次大戦以来、最も大きな発言力を手に入れたが、この短期的な利益はブレアの戦略が国内にもたらした政治的ダメージのせいで吹き飛んだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中