最新記事

アメリカ政治

世界経済を人質に取った共和党過激派のルーツ

債務上限引き上げに合意はしたが超保守派が党で影響力を持ち続ける構造は変わらない

2013年10月29日(火)16時01分
ジェイコブ・ワイズバーグ(スレート・グループ編集主幹)

扇動者 オバマケア叩きで右派の寵児になったテッド・クルーズ上院議員 Andrew Burton/Getty Images

 この20年間、アメリカ政治は共和党の反乱に振り回されてきた。いま駄々をこねている共和党保守派が最初に姿を現したのは、民主党のクリントンが大統領に就任した90年代のこと。95年から下院議長を務めたギングリッチの一派が、好戦的で非協力的な姿勢を打ち出した。

 ギングリッチこそ「超党派の歩み寄り」という米議会の美徳を汚した張本人だ。彼の下で、下院共和党はクリントンの医療保険制度改革にことごとく反対し、90年代の好況を生んだ景気刺激策にも不支持を貫いた。

 95年、クリントンに大幅な歳出削減をのませるための脅迫手段として、連邦債務上限の引き上げを拒むという戦術を編み出したのもギングリッチだ。さらに政府機関閉鎖という戦術も考案した。

 クリントンは共和党が理性のない行動に走る原因は、大統領選で得票率が過半数に届かなかった自分にあるとみていた。だが共和党の過激な政治手法はおそらく、目先の利益や成果を得るためのものだろう。

 責任感や礼節といった伝統を捨てることで、既に共和党は94年の中間選挙で上下両院の多数派獲得に成功していた。手っ取り早く権力を握るには妥協を排除すればいいと確信したのだ。

 共和党保守派は以降、過激な主張や戦術を持つ政治家に「褒美」で報いる体制を築いてきた。下院議員選挙では浮動票を取り込む努力をしなくて済むように州内の選挙区割りを変えた。穏健派が選挙に出れば、保守急進派を対抗馬に担ぎ出し、穏健派候補の政治生命を絶つネガティブキャンペーンを展開した。

 草の根保守派連合「ティーパーティー」は社会や経済の変化に対する漠然とした怒りから生まれたとされているが、このような褒美に釣られて生まれたとも言える。

T・クルーズは一躍有名人

 オバマ大統領は1期目に共和党の罠にはまった。11年、共和党は債務上限の引き上げに合意する交換条件として予算削減を求める作戦をまた持ち出した。するとオバマは交渉に応じ、予算の削減を認めてしまった。

 オバマはその後、共和党を相手に妥協すれば相手をつけ上がらせるだけだと悟り、今回は断固として交渉を拒んだ。先週、共和党穏健派のベイナー下院議長がオバマに無条件に譲歩したのは分岐点といえる。20年にわたり共和党を理不尽な行動に走らせてきた戦術が通用しなくなったことを示すからだ。

 共和党上院の重鎮たちは自らの無力さに悔しさをにじませた。デフォルト(債務不履行)を駆け引きに使う戦術にうんざりしたウォール街との間にも亀裂が入った。来年の中間選挙で共和党が上院の過半数を維持する見込みは大幅に低下。共和党がこの戦術を使うことは二度とないだろう。

 しかし共和党の多くの政治家にとって、「ご褒美システム」は変わらないままだ。テッド・クルーズ上院議員の医療保険制度改革法(オバマケア)非難演説は共和党に大きなダメージを与えたが、クルーズ本人は知名度を上げ、右派の寵児となった。

 多くの共和党下院議員は地元に帰り、債務上限引き上げに反対票を投じたと吹聴して回るだろう。来年の中間選挙では、共和党への逆風の中でも超保守派の当選は堅いとみられる。

 共和党がまともな政党として生まれ変わるためには、妥協に前向きになるという伝統的な価値観や美徳を取り戻し、超保守派と距離を置くことが必要だ。だが残念ながら当面は、反省という言葉を知らず、強情で恐ろしく無責任なティーパーティーに支配され続けるのだろう。

© 2013, Slate

[2013年10月29日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米関税引き上げ、中国が強い不満表明 「断固とした措

ビジネス

アリババ、1─3月期は売上高が予想上回る 利益は大

ビジネス

米USTR、対中関税引き上げ勧告 「不公正」慣行に

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中