最新記事

アメリカ社会

黒人差別か正当防衛か、再燃する米人種裁判

一度は釈放された容疑者が逮捕・訴追されたが、有罪判決に持ち込むのは至難の業

2012年4月13日(金)15時20分
マリヤ・カリムジー

正義を求めて マーティン少年を殺したジマーマンの訴追を求めるデモ(ロサンゼルス、3月22日) Jonathan Alcorn-Reuters

 米フロリダ州で2月末に黒人の高校生トレイボン・マーティンが射殺された事件をめぐり、同州検察当局は11日、容疑者のジョージ・ジマーマン(28)を殺人容疑で逮捕し、第2級殺人罪で訴追したと発表した。

 ジマーマンは事件当初、マーティンを不審者と思い込んで追跡し、もみ合った末に射殺したと供述。警察はいったん彼を拘束したが、正当防衛の発砲を合法とするフロリダ州の「自衛法」が適応されるとして釈放した。しかしマーティンが黒人だったことから、事件は人種差別問題に発展し、全米でジマーマンの訴追を求める抗議運動が高まっていた。

 そして今回ついに訴追となったわけだが、AP通信によれば、検察側が有罪判決を勝ち取るのはかなり難しいという。検察側はジマーマンが正当防衛ではなく、故意にマーティンを撃ったと証明しなければならない。そうしなければ、フロリダ州の自衛法が適応されないと主張できないからだ。

最初の供述と通報記録が鍵に

 ジマーマンは11日、検察当局が訴追を発表した直後に自ら出頭したが、無罪を主張する見通しだ。「彼は公正な裁判を受けられるか、公正な形で自分の主張を聞いてもらえるか懸念している」と、担当弁護士のマーク・オマラは語っている。「彼はいま、大きな憎悪の標的となっている。そうした憎しみが早く収まるよう願いたい。彼には身を守る権利があるし、判事と陪審員の前で審理される権利もある」

 刑事訴訟のベテラン弁護士ブルース・フライシャーいわく、ジマーマンが最初に事件を警察へ通報した際に言ったことと、警察での最初の供述が、裁判の行方を左右する鍵になる。自分の命が危ないとジマーマンが信じていたと示すものが、弁護の核になるだろうと、彼はブルームバーグ・ビジネスウィーク誌に語った。「正当防衛は法で認められており、フロリダ州の自衛法はさらにそれを強化するものだ」

 有罪判決が下された場合は無期懲役になる可能性もあるが、実際はかなり望み薄だという。過失致死容疑なら誤って殺したケースも対象になり、たいがい15年程度の実刑が課される。

 しかし今回の場合、殺人容疑では「陪審員の前で審理される前に、判事に棄却される可能性が非常に高い」と、地元のある弁護士はAP通信に語った。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国と湾岸諸国の貿易協定、サウジが国内産業への影響

ワールド

豪賃金、第1四半期は予想下回る+0.8% 22年終

ビジネス

TSMC、欧州初の工場を年内着工 独ドレスデンで

ビジネス

ステランティス、中国新興の低価格EVを欧州9カ国で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中