最新記事

米大統領

オバマ家の夏休みに文句をつけるな

自身の別荘さえもたないオバマ一家の束の間の休息が「エリート主義的」と批判される不可思議

2010年8月18日(水)17時21分
アン・アップルボム(ジャーナリスト)

パフォーマンス オバマは次女サーシャとともにフロリダ州で海水浴をし、メキシコ湾岸の安全性をアピールした(8月14日) Pete Souza-The White House-Reuters

 アメリカ人はなぜ、大統領ファミリーの休暇の過ごし方をこれほど気にするのだろう。確証はないが、私はジョン・F・ケネディー大統領の一家が引き金になったと考えている。家族でタッチフットボールに興じる姿や優雅なクルージングの光景はテレビ映り抜群。ケネディー家が国民に印象付けた「理想の休暇」のイメージを、その後のどの大統領も越えられていない。
 
 ケネディー以前にも、休暇を楽しむ大統領はいた。フランクリン・ルーズベルトはフロリダで釣りや乗馬、海水浴を楽しむ姿まで写真に撮られた。その従兄のセオドア・ルーズベルトも、外国の森で狩猟の獲物を高々と掲げる写真が数多く残されている。
 
 休暇の過ごし方という点では、ケネディーやルーズベルトの一家は極めて恵まれていた。ブッシュ家やレーガン家と同じく、彼らも田舎に広大な私有地をもっており、美しい自然のなかでくつろぐことができた。

休暇の過ごし方もイメージ戦略の一環

 そのうえ、休暇の過ごし方は選挙に有利なようにイメージ操作されていた。ケネディーのスポーツへの情熱は、若々しくてエネルギッシュな印象を有権者に植えつけたし、レーガンが勇敢なカウボーイのイメージで語られるのは、カリフォルニアの牧場のおかげだ。

 ジョージ・ブッシュのメイン州の別荘は、ニューイングランド地方出身という自身のルーツを強調する役割を果たした。一方、息子のジョージ・W・ブッシュは、南部テキサス州クラフォードの牧場(スノッブなニューイングランド地方とは対照的だ)を愛する姿をアピールすることで、彼に欠けていた「温かみのある南部人」という評価を手に入れた。

 私が記憶にある大統領のうち、別荘を所有していない大統領はビル・クリントンとバラク・オバマの2人だけ。休暇先のチョイスについて彼らがとりわけ厳しく非難されてきたのは、偶然ではない。

 ジョージ・W・ブッシュはクラフォードの牧場での休暇を親しい友人や支援者と過ごした。報道陣のカメラから逃れ、世間の目やワシントンでの生存競争から離れて一息つくことができた。

 一方、クリントンが親しい友人や支援者と過ごすために(そして世間の目やワシントンでの生存競争から離れて一息つくために)マサチューセッツ州の高級保養地マーサズ・ビンヤードを訪れると、エリート主義者だと非難轟々。昨年、オバマが同じ目的で同じマーサズ・ビンヤードで休暇を過ごした際にも、同じように非難された。
 
 自分の別荘を所有するよりも、誰かの別荘を借りるほうがエリート主義的? 父ブッシュの別荘があるメイン州ケネバンクポートや、ケネディー家の別荘があるマサチューセッツ州ハイアニスポート、息子ブッシュのテキサス州の牧場と比べて、マーサズ・ビンヤードのほうがお高くとまっている? 私にはとても信じられないが、アメリカ人は皆そう信じている。

ミシェルのスペイン旅行に批判殺到

 だから、クリントン一家はワイオミング州ジャクソンホールで休暇を楽しむポーズを取らざるを得なかった。ジャクソンホール滞在中、一家は報道陣の前に登場し、自分たちが「普通のアメリカ人」であることを示そうとしていた。大統領に選ばれた人間が、普通のアメリカ人になれるはずがないのに。

 現在、オバマにも同じ運命が降りかかっている。別荘を所有していないせいで、かえってエリート臭くみえるなんて不思議な話だ。

 昨年、マーサズ・ビンヤードでの休暇をこっぴどく批判されたオバマ一家は、その後、メイン州とイエローストーン国立公園、グランドキャニオン、ノースカロライナ州を訪れた。どこも、「普通」のアメリカ人が好む旅行先だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸

ビジネス

大和証G、26年度までの年間配当下限を44円に設定

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ弾道ミサイル発射=韓国軍

ワールド

ロシア、対西側外交は危機管理モード─外務次官=タス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中