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環境汚染

救出はペリカンをもっと苦しめるだけ?

2010年6月9日(水)18時17分
ジェニーン・インターランディ

洗浄作業の工夫で生存率は上昇したが

 もっとも90年以降、救助に当たる人たちは油まみれの野鳥を救う最適な方法を模索してきた。おかげで、今回の事故では生存率は上がるとみられている。以前は、救出した野鳥はすぐに洗浄する形をとっており、事故の際にはボランティアのスタッフが夜通し洗浄作業を続けた。しかし、捕獲と洗浄によるストレスが野鳥に深刻なダメージを与えることが各種研究で判明。そのため今では、洗浄前に1~2日間の休息を与え、洗浄作業も生活リズムを崩さないよう日中に行なう。

 これまで約200件の原油流出事故で野鳥の救助に当たってきた国際鳥類救護研究センター(IBRRC)によると、このように少し手順を変えるだけでも野鳥が自然に帰れる確率は劇的に上がったという。なかには、野生に戻れる確率が5%から80%に上昇した種もあるという。

 もっとも、救助する側が救えそうな野鳥を選別するようになったという側面もある。「今は捕獲後すぐにその場で血液検査を行なう」と、米鳥類保護団体アメリカン・バード・コンサーバンシーの鳥類専門家マイケル・フライは言う。「炭化水素をたくさん摂取していたり、生き延びそうもない鳥はすぐに安楽死させられる」

鳥たちの救助を求める大衆心理

 野生に戻れる確率は上がっているものの、生存期間が延びていることを示す証拠はほとんどない。「損傷した内臓を治療する生物医学的な改善策はまだ見つかっていない」と、アンダーソンは言う。

 どんな形であれ、今後も救助作業は続けられる。世論がそれを求めるからだ。「組織的な対応が行われなければ、一般の人々が自分たちで乗り出しかねない」と、米タフツ大学の獣医で野鳥救出の専門家であるフロリーナ・ツェングは言う。「彼らは誠意を尽くしているつもりでも、野生動物の適切な保護方法に関する知識はない」

 ツェングは正確な数字は分からないとしながらも、動物の救助と保護にかかるコストは、油の除去作業に比べれば微々たるものだと言う。さらに90年にアメリカで制定された油濁法のおかげで、事故を起こした石油会社に対して被災動物への賠償責任を問えるようになった。

「私は、安楽死の方が良い種もあるのではないかと思う」とアンダーソンは言う。「しかし安楽死させるのは難しい。特に、これまで動物保護に真摯に取り組んできた人たちにとっては」

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