最新記事

米事件・犯罪

LAギャングの消えないタトゥー

2009年4月7日(火)11時54分
スザンヌ・スモーリー、エバン・トーマス

 ある日、イーストロサンゼルスのイノホスの家を訪ねたとき、ダビラは今もたまに昔の仲間と行動していることを認めた。「道を踏みはずすなよ」と、イノホスは諭した。麻薬と銃には手を出すなという意味だ。

 2人はお互いのことを深く理解し合っているようだ。

イノホス 「おまえの気持ちは手に取るようにわかるよ。街にどっぷり漬かってれば無理もない」

ダビラ 「(敵が)そこにいるという感覚がたまらない」

イノホス 「よくわかるよ......『道に目を凝らして、なに探してるのよ』とサンドラに言われる」

 「車を運転している間、敵がいないかどうか目を光らせてるのよ」と、サンドラが口をはさむ。

 「体に染みついているんだ......(麻薬の密売や盗みは)もうしないけど、やっぱり街は俺たちの原点だから」と、イノホスが言う。

「いつになってもそれは変わらない」と、ダビラも言う。

 ダビラのように若いと、足を洗うのはことのほかむずかしい。年長のギャングが侮辱の言葉を浴びせたり、ときには暴力で脅したりして引き戻そうとする。

 ロサンゼルスのホームボーイ・インダストリーズは年間8000人を超す男女を支援しているが、ギャングに戻ったり麻薬に手を染めたりする者もいる。ギャングを抜けた若者は孤独感に苦しみ、精神的に参ってしまうことも多い。「途中で脱落する若者がとても多い。せっかく成功を手にしかけたのにぶち壊しにしてしまう」と、ホームボーイで薬物常用者のカウンセラーをしているファビアン・デボラは言う。自身もかつてギャングの一員で麻薬常用者だった。

 どうにか踏みとどまりたいと、ダビラは思っている。「昔は、誰かがガンを飛ばしたとか、口のきき方が気に食わないというだけで銃をぶっ放していた。今は頭を冷やすようにしている......昔と同じ通りをのし歩いてるけれど、銃を持ち歩いていない」。でも----とダビラは言う。「もし誰かがふざけたまねをしたらやり返す」

ようやく見つけた幸せ

 ダビラにギャング生活を抜け出してほしいと、イノホスは強く願っている。「寝る場所がないときは、いつでもうちに来ていいんだぞ......路上生活がどういうものか俺はわかっている」

 いまイノホスが暮らすイーストロサンゼルスの借家の壁には、命の恩人だというホームボーイ・インダストリーズのグレゴリー・ボイル神父の写真に、ローラ・ブッシュと一緒に写った写真、そして映画『スカーフェイス』のポスター。アル・パチーノ演じる麻薬密売人トニー・モンタナのセリフが記されている。「俺はあるがままを受け入れる......世界を......そして世界すべてを」

 掃除好きのイノホスは毎日、床をモップでふき、掃除機をかけている。堅気の暮らしに慣れるまでは、自分の中の悪魔をおとなしくさせるのに苦労し、麻薬の力に頼った時期もあった。ずいぶん年を取った気がすると言うイノホスは、いま29歳だ。

[2009年3月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中