最新記事

自動運転

信号無視する歩行者に飛び出す自転車 最悪な深圳の交通環境が自動運転技術を鍛える

2022年8月7日(日)11時15分
中国深圳の自動運転「ロボタクシー」の運転席

混み合う市街地で突然、自動車の前にデリバリー用の自転車3台が横断歩道を横切って飛び出してきた。この自動車はスタートアップ企業、元戎啓行(DeepRoute.ai)が製造するセンサー搭載型「ロボタクシー」だ。写真は7月29日、深圳で撮影(2022年 ロイター/David Kirton)

混み合う市街地で突然、自動車の前にデリバリー用の自転車3台が横断歩道を横切って飛び出してきた。自動車のダッシュボードには、1990年代のビデオゲームに登場した3次元(3D)の青いブロックのように映る。

ハンドルは自動で旋回し、自動車は静かに停車した。「セーフティドライバー」が助手席からその様子を見守る。

この自動車はスタートアップ企業、元戎啓行(DeepRoute.ai)が製造するセンサー搭載型「ロボタクシー」だ。中国・深圳市の中心部、福田区では100台が走行しており、昨年は乗客を乗せて5万回の試験走行が実施された。

自動運転技術の試験ではこれまで、米国が先行していると考えられてきた。しかし深圳が今ギアを上げており、ロボタクシーの試験走行があっという間に日常の風景になりつつある。

深圳市で試験走行を行っているのは元戎啓行のほか、インターネット検索サービス大手、百度(バイドゥ)の「アポロ」、トヨタ自動車が支援する「小馬智行(ポニー・エーアイ)」、日産自動車などが出資する「文遠知行(ウィーライド)」、中国電子商取引大手アリババが支援する「オートX」の各社。信号無視する歩行者が多く、電動バイクが走り回るこの都市の難しい環境下で走行している。

人口1800万人の深圳は今、中国で最も明確な自動運転車の規制が整っている。8月1日からは市の広い範囲で、登録済みの自動運転車であれば運転席にドライバーが座らずに走行することが可能になる。もっともドライバー1人の乗車は義務付けられる。

今のところ中国各都市は、地元当局から許可を得ることを条件に、もっと限定的なロボタクシーの走行を認めている。しかし深圳当局は同国で初めて、事故時の法的責任を巡る重要な枠組みを整えた。

この枠組みでは、自動運転車でドライバーがハンドルを握っていた場合、事故の責任はドライバーにある。完全にドライバー不在の場合には、車両のオーナーが責任を負う。自動車の欠陥が原因で事故が起こった場合には、オーナーはメーカーに補償を求めることができる。

元戎啓行のマクスウェル・チョウ最高経営責任者(CEO)は「自動車が増えれば、ゆくゆくは事故も増える。従って広く普及する上で規制は非常に重要だ」と語る。「完全な無人運転が実現したわけではないが、大きな一里塚だ」と話す。

アクセル踏む中国

自動運転車の試験走行はこれまで、米国が先行してきた。カリフォルニア州は2014年から公道での試験走行を認めており、テスラとアルファベット傘下のウェイモ、米ゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転車部門クルーズは数百万マイルの走行を実施済みだ。

しかし中国もアクセルを踏み込んでいる。中央政府は最新の5カ年計画で自動運転車を柱の一つに据えた。深圳は2025年までに同産業の収入を2000億元としたい意向だ。

クルーズのダン・アマンCEOは昨年5月、バイデン米大統領に対し、米国の自動運転車安全基準では「トップダウンで中央指令型アプローチの」中国に遅れを取りかねないと進言した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー

ワールド

焦点:中国農村住民の過酷な老後、わずかな年金で死ぬ

ワールド

アングル:殺人や恐喝は時代遅れ、知能犯罪に転向する
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの文化」をジョージア人と分かち合った日

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中