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法からのぞく日本社会

もしも作曲家がAIをゴーストライターに使ったら、著作権はどうなる?

2017年12月26日(火)12時06分
長嶺超輝(ライター)

著作権フリーの大量作曲は何を生み出すか

もっとも、AIによる機械的な「創作」であることを公表し、その機械創作のきっかけを作ったり関わったりした人物であれば、著作権が発生することもあるだろう。

自分のアイデアを形にするため、AIを「道具」として利用しているわけだから、例えばギターやピアノを弾いて作曲したり、パソコンで文章を執筆しているのと同視できる。

だが、人間は単にデータを集めて提供しただけで、それを基にAIが自律的に作った作品であれば、著作権は認められない。

すなわち、著作権フリーの楽曲である。いろいろなユーチューバーが自由に使いたい放題である。

もし、自慢のダンスを動画で世界に発信したければ、JASRAC(日本音楽著作権協会)管理の楽曲を流すと具合が悪いので、AIが自動作曲したノリノリの曲を使えばいい。

店舗で流すBGMも、著作権の付いた楽曲を使えば、JASRACから警告を受けるリスクがある。その点、AIが作曲した音楽であれば、許可を取らなくてもBGMとして使用できる。

つまり、AIによって、誰もが無料で気軽に使用できる著作権フリーの楽曲を自動的に大量生産する場を作れば、その場をつくった企業のサイトは、ごっそりとPVを集めることができるのである。人を集めて、そのサイトで時間を使わせることができる。そこから別のビジネスチャンスが生まれる。

そうすれば、ひょっとするとAIの作品に著作権がなくても、そのAIを管理する者(企業)は問題なく稼ぐことができるだろう。そのような企業は、著作権よりも、AI作曲の独占権を法的に保障するよう、議員らにロビー活動を仕掛けるのかもしれない(もう、やっているのかもしれない)。

これだけ「読み放題」「聴き放題」「見放題」が溢れている時代だ。時間と手間をかけて丹精こめて作った作品が「放題ラインナップ」に組み込まれて、飛び上がって喜ぶ作者は少ないだろうが、AIはそれでも平気である。

現代は、インパクトがあって話題になりやすい作品は、インターネットで不特定多数へ拡散されるのだから、作品の存在を知らしめるプロモーションを徹底的に行うのなら、むしろ著作権が邪魔になる局面もある。

果たして法律は、作品の何を保護すればいいのだろうか。著作権の概念がそろそろ変革を迫られているのは間違いない。

なお、AIをゴーストライターに据えて音楽を作らせ、自分が作曲したものと詐称して販売した場合、前述のように"クズ作曲家"にも"AIゴーストライター"にも著作権は認められないので、AIに対する著作権侵害にはならない。しかし、購入者や音楽レーベル会社への詐欺が成立するのは言うまでもない。

[筆者]
長嶺超輝(ながみね・まさき)
ライター。法律や裁判などについてわかりやすく書くことを得意とする。1975年、長崎生まれ。3歳から熊本で育つ。九州大学法学部卒業後、弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫した。2007年に刊行し、30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の他、著書11冊。最新刊に『東京ガールズ選挙(エレクション)――こじらせ系女子高生が生徒会長を目指したら』(ユーキャン・自由国民社)。ブログ「Theみねラル!」


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