最新記事

ヘルス

男性の平均寿命トップから36位へ 沖縄があっという間に「短命県」になったシンプルな理由

2021年9月21日(火)18時42分
家森幸男(京都大学名誉教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

このようなことが起こる背景には「伝統的な食生活の崩壊」があったと述べましたが、それとセットで入り込んできたのが「グローバリゼーション」です。

経済のグローバリゼーションが起こったことにより、人やモノが驚くほどの規模とスピードで移動するようになりました。その結果、地球上のありとあらゆるものが、世界中で気軽に手に入り、食べられるようになりました。

それ自体は悪いことではないのですが、これによって「食の欧米化」が急速に進んでしまいました。特にアメリカのファストフードの普及は圧倒的でした。

世界一の長寿地域になった香港

欧米の食文化は一見、豪華で、手軽で便利です。油(脂肪)と糖がたっぷり入った食品は刺激的・魅力的です。しかも値段もかつてより大幅に安くなりました。その結果、油を大量に使ったファストフードや、砂糖がたっぷり入った清涼飲料水が、あっという間に全世界に広がって行ったのです。

私たちが調査を始めた1985年は、まだ経済のグローバル化が進んでおらず、世界中どこも、その地方の特色が色濃く残っている時代でした。そういう意味では私たちの調査は世界の各地域の伝統的な食生活を知るための最後のチャンスだったかもしれません。

世界の伝統食が失なわれ、長寿村が消滅していく中、2000年代に入ってからぐんぐん平均寿命を延ばし、ついには世界一の座に輝いたのが「香港」です。

香港というと、アジアを代表する観光地ですが、人口密度が高く、ゴミゴミしていて、ちょっと不潔そうな印象もあり、あまり「長寿」というイメージは持たれていないかもしれません。その香港がなぜ今、長寿地域として台頭してきたのでしょうか。

私たちは中国、香港にも何度も調査に入っています。香港と言えば中華料理です。中華というと、油をたっぷり使い、味もしっかり濃いと思われていることも多いのですが、現地の人たちが日常的に食べているものは私たちの考える中華料理とは別ものです。

栄養バランスに優れている広州料理

香港のお向かいは広州です。昔から「食は広州にあり」というぐらいで、ひじょうに食文化のレベルの高い地域として知られます。ですから食材は新鮮なもの、生きているものにこだわります。魚も鶏も生きているままで買って、各家庭でさばいて料理します。

また野菜や果物も豊富です。広州は温暖な気候で、農作物がよく取れますから、野菜や果物も鮮度のいいものがどんどん香港に入ってきます。さらには豆腐や豆乳といった大豆製品を日常的に摂っています。

豆腐は、海水を煮詰めて製塩した後の残液を「にがり」として使っています。このにがりには塩化マグネシウムがたっぷり含まれていて、豆腐は昔ながらの味です。それから魚です。香港は海に面しており、魚介類がふんだんに取れます。

野菜と果物、大豆、魚と長寿食材がそろい踏みしているのです。こうした長寿食は大豆文化の源流である貴州省や、野菜や果物を乾物にして多く摂る新疆(しんきょう)ウイグル自治区など、大陸の各地から流れ込んできたものです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ゼレンスキー氏の正当性に疑問 戒厳令で

ワールド

ロシア誘導爆弾、ウクライナ北東部ハリコフで爆発 2

ワールド

ウクライナ和平、「22年の交渉が基礎に」=プーチン

ワールド

イスラエル、ガザは「悲劇的戦争」 国際司法裁で南ア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中