最新記事
サッカー

サッカー=ドイツ代表、「ベルンの奇跡」支えたアディダス捨て、ナイキに鞍替えの衝撃

Much More Than Just Shirts

2024年4月24日(水)20時00分
ブリン・ストール

当日は大雨。その中で西ドイツが勝った要因の1つは、靴底のスタッドがコンディションに合わせてネジ式で取り替え可能なことだったとされる。この勝利は、戦後の西ドイツが国際社会に復帰する後押しになったともいわれる。

以来、アディダスはドイツサッカーとの結び付きを保ったが、今回の離別を機に語られているほど強い絆でもなかった。74年のW杯でも、西ドイツは大半の選手がアディダスのシューズを履いて優勝を遂げたが、代表ユニフォームはライバルのエリマ製だった。

代表との関係から売り上げを伸ばしたアディダスは、やがて外国の一流選手や有力チームとスポンサー契約を結ぶ。特筆すべきなのは、70年代に共産圏諸国と独占契約を結んだことだ。この流れから80年のモスクワ五輪で、ソ連選手団がアディダスのトラックスーツを着用。アディダスは東欧で大人気となり、このトレンドは今日まで続いている。

アディダスのルーツは、バイエルン州出身の兄弟がつくった会社だ。ルドルフとアドルフ(アディ)のダスラー兄弟は1920年代にシューズの販売を始め、30年代にはオリンピック選手に提供することで台頭した。アメリカの伝説的な陸上選手ジェシー・オーエンズは、36年のベルリン五輪で兄弟のシューズを履いて4つの金メダルを獲得した。

ベルリン五輪

オーエンズはダスラー兄弟のシューズを履いてベルリン五輪で4つの金メダルを獲得 LOTHAR RUEBELTーULLSTEIN BILD/GETTY IMAGES

48年に2人がたもとを分かった理由は、今も謎に包まれている。これ以降、兄弟は二度と口を利かなかったとされ、互いに競合するスポーツシューズの帝国を立ち上げた。

このときアディがつくった会社がアディダスだ(社名はアディ・ダスラーの略)。兄のルドルフが創設した会社は最初「ルダ」(ルドルフ・ダスラーの略)と名付けられたが、すぐに「プーマ」に変更された。

その後、世界屈指のスポーツシューズメーカーに上り詰めたアディダスとプーマは、第2次大戦の敗戦国であるドイツが世界に冠たる工業大国にのし上がった「経済の奇跡」を象徴する存在になった。

2つの会社は「サッカーで世界の頂点を目指すだけでなく、輸出大国としても頂点を目指そうという、ドイツの不屈の精神を体現していた」と、ドイツのスポーツ文化史を専門とする英ダラム大学のケイ・シラー教授は言う。

こうした経緯を考えると、アディダスがドイツ代表との契約を失ったことの意味はあまりに重い。この数年間苦しい状況が続いていたアディダスは、今回の一件(同社にとっては青天の霹靂〔へきれき〕だったとされる)によりメンツをつぶされた格好だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中