最新記事
考古学

アレクサンドロス大王の親族の墓、定説が覆る!「私ならこのパズルを解ける」...骨から新事実

Bones of Contention

2024年3月11日(月)16時00分
アリストス・ジョージャウ(本誌科学担当)

アレクサンドロス大王の親族

第1墳墓から発掘された中年男性(左)と若い女性の上あごの骨 JOURNAL OF ARCHAEOLOGICAL SCIENCE: REPORTS

その結果、第1墳墓で見つかった男性の遺骨はフィリッポス2世であることが判明したという。この墓には女性と赤ん坊の遺骨も葬られており、研究チームはこれをフィリッポス2世の妻クレオパトラと、生まれたばかりの夫妻の子供だと結論付けた。

これは、フィリッポス2世の死に関する歴史書の記載とも一致する。彼はクレオパトラが出産した直後に暗殺され、クレオパトラと赤ん坊もそのすぐ後に殺されたのだ。

「まず第1に、歴史資料によればフィリッポス2世は片方の目をけがしていた。そして第2墳墓の男性の骨には片目にけがをした形跡があるというのがこれまでの説だった。だから第2墳墓に葬られたのはフィリッポス2世というわけだ」とバルチオカスは語った。だが、第2墳墓の骨にあるといわれていた目の辺りのけがの痕跡は、実際にはないことが最近の分析で明らかになった。定説は誤った根拠に基づくものだったのだ。

「第2に、第1墳墓の男性の足の骨には癒着が見られ、これはフィリッポス2世が片足を引きずっていたとされる点と一致する。第3に、第1墳墓に新生児がいたことも、この墓がフィリッポス2世のものである証拠だ。マケドニア王族の中で、生まれた直後に殺されたことが知られているのはこの(フィリッポス2世の)子しかいないからだ」

「第4に、(合葬されていた)女性の生物学的年齢は18歳で、これはフィリッポス2世の最後の妻クレオパトラと一致する。古代の資料では、生まれたばかりのわが子と共に殺されたのは若い娘だったと伝えられている」

一方で第2墳墓の男性の遺骨からは、生前にけがをした痕跡が見つからなかった。また第2墳墓にも女性が葬られていたが、2人の遺骨は火葬されており、大王の兄アリダイオスの歴史的データと一致する。そこで研究チームは、第2墳墓をアリダイオスと妻のエウリュディケのものと結論付けた。

第2墳墓の主がアレクサンドロス大王の後継者となった兄だったことから、ここで見つかった遺物は元はアレクサンドロス大王の所有物だった可能性もあると研究チームは指摘する。「埋葬者の身元が誰かによって、その(墓の)内容物の解釈は大きく変わってくるだろう」

「例えば、古代の文献の描写や記述を基に、第2墳墓の鎧などの遺物の一部はアレクサンドロス大王のものだったという説を唱える学者もいる。だがそれも、これがフィリッポス2世ではなくアリダイオスの墓でなければ成立しない」と論文は指摘する。

一方で、第3墳墓に葬られていたのは死亡時に10代の少年だったアレクサンドロス4世だという点で、ほとんどの専門家の意見は一致。今回の研究でも、定説を否定するような証拠は見つからなかったそうだ。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中