最新記事

ウルトラマン

『シン・ウルトラマン』の55年以上前から「ウルトラマン」は社会問題を描いていた──「特撮」から見る戦後史

2022年5月18日(水)17時05分
文:幕田けいた 画像提供:円谷プロダクション ※Pen Onlineより転載

【人口問題】

発展し続ける現代社会には、さまざまな問題が山積している。都市部に人口が集中することで起こる地方の過疎化と都市の「人口過密」もその一つだ。近年のコロナ禍の影響でテレワークや地方移住が進み、ようやく歯止めがかかりつつあるが、それでもなお大きな社会問題である。社会基盤や経済システムを一極集中させてきた日本の行く末はどこなのか......。

また「少子高齢化」も現代社会が抱える課題だ。この先、若者の減少が止まらない日本で、いかに社会保障制度を保っていくのかは、かなり難しい問題だ。「ウルトラQ」において、これらの社会問題をテーマに掲げたのは1966年のこと。先見の明があったのと同時に、それから56年を経たいまでも、日本は、同じ問題に頭を悩ませているのである。

初期のウルトラシリーズは、特撮というフィルターをかけることで子どもも楽しめる番組にしつつも、現実の問題をメタファーとして描くつくり手の気概が感じられる作品ばかりだ。

人口過密の対策は、住む場所がないなら人間を縮小してしまえ!

■1966年 「1/8計画」(ウルトラQ)

pen20220518ultraman-3.jpg

ヒロイン江戸川由利子がトラブルで縮小人間にされ、8倍の大きさになった電話で上司に連絡をとるシーン。

日本政府が増え続ける人口対策として進めたのが、人間を縮小し、厳格な管理のもとミニサイズの地区に居住させる「1/8計画」だった。高度経済成長期、首都圏では地方からの人口の流入が続き、地方の過疎と都市の過密が同時に起きる状況が顕在化した。60年代前半の5年間で、東京へ約186万人、後半にも約136万人の人口流入が発生。しかし都会生活のすべてが素晴らしいわけではない。「1/8計画」でも住民は市民番号が付けられ、元の世界と隔離される様子が描かれる。人口密度の高い都会での生活は、個人の無個性化、孤独化という問題もはらんでいる。

止まらぬ衰えに、若い肉体を求める誘拐犯の正体は!?

■1966年 「2020年の挑戦」(ウルトラQ)

pen20220518ultraman-4.jpg

ケムール人が未来の人類像ではないかともとれる、「2020年」のタイトルが不気味。まさに"いま"の物語だ。

日本各地で、突如として人間が消える謎の失踪事件が起きる。犯人は発達した医療技術によって長寿を得たケムール人だった。しかし肉体の衰えを止められないケムール人は、地球人の若い肉体に目を付け、誘拐計画を実行していたのだ。消失の瞬間を目撃した由利子と護衛の宇田川刑事に魔の手が迫る─。現在、日本が抱えている少子高齢化問題を予言しているような物語だ。高度先進医療やアンチエイジング技術の発明の先に、人類のケムール人化があるのかも!?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中