最新記事

消費

いま売り上げ好調なアパレルブランドは何が違うのか(栗野宏文)

2020年9月25日(金)11時35分
栗野宏文(ユナイテッドアローズ上級顧問クリエイティブ・ディレクション担当)

fashionbook20200910-2.jpg

コム デ ギャルソン・オム プリュス 2020/21コレクションより

COVID-19禍で消費が縮小するなか、高単価の商品が売れている

約3ヶ月間のロックダウンが明けて、日本社会は6月から一応"通常営業"に戻りましたが、小売りが営業できなかった3ヶ月間は1年の前半で最も売り上げが大きい時期でもあったので、当然、販売機会をロスしました。

結果、在庫を抱えた多くの小売業は早期のセールという状況に。そこへ長梅雨や豪雨が重なり、梅雨が明けると猛暑続き......。感染者数が再び増加したこともあって、7月、8月の小売り市況もネガティヴで、大多数のファッション小売業や百貨店が昨年対比で7割以下の売り上げと公表。昨年まで活発だったインバウンド消費もゼロに近い。

この間、国内外の歴史ある企業やブランドが連続して倒産したり、経営危機に陥ったりしました。また、百貨店も売り上げ回復が困難な状況です。この現状はCOVID-19禍が始まって以降、多くの業界人が抱いた危機感が具体化したもの、と言えますが、根源的な問題が顕在化した結果でもあります。

そもそも百貨店やそれに向けたブランドは商品企画的にも販売体制的にも"旧態依然"過ぎた――と、指摘されても仕方がない状況だったのです。

"不特定多数"に向けた企画や"来店を前提とした売上目標"、それをCOVID-19はバッサリ切りました。COVID-19禍は、既存の価値観や消費傾向を破壊しリセットする機会となり、それまでの暮らしやお金の使い方を反省する機会ともなりました。

まず"生存"が最優先され、他者と"遭遇しない"ことが推奨され、また、社会全体の経済活動停滞や、結果としての劇的な構造変化が急速に具体化し体感されるなか、漫然とした消費など有り得ないのです。消費は"必要なもの"と"不要不急なもの"に二分化され、"ファッションどころではない"という空気が醸成されました。

では「ファッション消費に未来はないのか?」と言うと、そうではないと思います。

現場の例で言えば、一部の国産メンズ・ファッション・ブランドは売り上げ好調です。それも、高単価でデザイン的にも"攻めた"ものの動きが良い。具体的にはコム デ ギャルソン オム プリュスやkolorというブランド、その中でも高額品が売れています。

ブランドのシーズン・スタート日、所謂"立ち上がり"にはお客様が開店前に並びました。今季のコム デ ギャルソン オム プリュスは"カラー・レジスタンス"というテーマの元、様々な色・柄がミックスされたジャケットや複数のタータン・チェック生地をパッチワークしたパンツが人気です。またkolorでは3着のアウターを重ね着したかのような、複雑で職人的技巧のアイテムに注目が集まっています。

これらの服の小売価格は20万円から30万円以上、パッチワークのパンツも9万円くらいします。好景気な時期でさえ販売がたやすくないこれらの高単価のデザイナー商品が何故、COVID-19禍で景況も低迷し、人々の価値観が劇的に変化しつつあるタイミングで売れていくのでしょう。

【関連記事】マスクが「必須のアクセサリー」になる時代、NYファッションショーにも登場

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中