最新記事

海外ノンフィクションの世界

人類史上最も残虐な処刑は「首吊り、内臓えぐり、仕上げに八つ裂き」

2018年2月28日(水)16時00分
森本美樹 ※編集・企画:トランネット

trannet180228-4b.png

右の写真は1936年の米アリゾナ州立刑務所で、ガス室での処刑の準備が進む様子(『処刑の文化史』より)

その後時代は変わり、近代化や工業化が進み社会が成熟していくにつれ、人権への意識も高まった。「冷酷かつ非道な処罰の禁止」とアメリカ合衆国憲法にうたわれる通り、受刑者に痛み苦しみを与えず素早く処刑を実行する方法が発明されるようになった。

そこで生まれたのが電気椅子、ガス室、致死注射などである。受刑者に人道を外れるほどの苦痛を与えることのない「健全な」処刑方法として開発されたこれらの処刑だが、完全で洗練された処刑であるがゆえに、ひとたび不手際が起こるとそれまでに例を見ないほどの世にも恐ろしい惨状を生んでしまうことも事実である。

本書は上述したさまざまな処刑や、ほかに一般にはあまり知られていない処刑についても1つ1つ触れていく。処刑の細かい手順や受刑者の肉体への影響などが全て事実にのっとり、丁寧に、そして生々しく語られる。読者はその残虐性に息をのみ、230点以上に及ぶ恐ろしい挿絵や写真から思わず目をそらしながらも、普段見聞きすることのない処刑の世界に惹きつけられていくだろう。

そしてこれらが、作り上げられた恐怖物語でもなんでもなく、全て確固とした史実に基づくものであり、実際に人間の手により執り行われてきたのだと気づき呆然とするに違いない。今この瞬間にも世界のどこかで処刑は行われているのだ。

印象的なセンテンスを対訳で読む

●In France, Britain, and the United States, the public's appetite for the spectacle of execution had reached the point where riots broke out and bystanders were killed in the crush as increasingly rowdy crowds fought for the best viewing sites.
(フランス、イギリス、アメリカなどでは処刑を見ようと群衆が押し寄せ、興奮して特等席を奪い合い、それが暴動化して死者がでるほどであった)

――古代ローマでは劇場を使って行われる処刑に人々が大喜びで集まり、フランス革命時にはギロチンの処刑を一目見ようと詰め掛ける民衆目当てに、ワインやビスケットを売る行商人まで出る始末。残虐な見世物にいつの時代も人は集まる。

●For quicker executions, nails were hammered through the ankles so that the full weight of the body hung down on the rib cage and internal organs, leading to a relatively quick, but painful death.
(時間をかけずに死亡させるためには、足首に釘を打って支柱に固定する。すると全重力が腹部と内臓部分にかかり、比較的早くしかも苦しい死をもたらす)

――これは磔刑の効果を描写したものである。イエス・キリストの処刑として絵画や彫刻にこれでもかと繰り返されるテーマだが、キリストの足の甲に刺された釘が腹部に圧力をかけることになり苦しい死をもたらしているとは想像したこともなかった。

●While waiting to be taken to their deaths, they had been singing a hymn. Over the space of 24 minutes, as they were executed one by one, the harmony went from a choir to a solo, to be followed by a deathly silence.
(処刑を待つ間、彼女たちは賛美歌を歌い続けた。24分間の間に1人また1人と処刑は進み、賛美歌の合唱は最後には独唱になり、そして死の沈黙がおとずれた)

――いつの時代のどんな処刑においても、受刑者はその尊厳を完全に無視される。だがこのようなかたちで自らの尊厳を維持することができるのもまた人間なのだ。取り乱すことなく静かに賛美歌を歌い続ける修道女たちの凛とした姿が目に浮かぶ。

◇ ◇ ◇

著者はこれらの処刑について、ときに独特のシニカルなユーモアをまじえながら淡々と事実だけを語っていき、敢えて結びの文を添えていない。残虐な史実をどう受け止めるかは読者次第だ。


『処刑の文化史』
 ジョナサン・J・ムーア 著
 森本美樹 訳
 ブックマン社

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ首都に今年最大規模の攻撃、8人死亡・70

ワールド

ロシア前国防相、西側侵略なら核使用の権利留保と表明

ビジネス

富士通、今期営業益35%増を予想 関税影響「善しあ

ビジネス

訂正日銀、追加利上げ先送りの可能性 米関税巡る不透
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中