最新記事
世界経済

アメリカとユーロ圏の物価が急降下...2%の目標値に近づく今、「インフレは終わった」と言えるのか?

2% IS JUST THE BEGINNING

2024年2月28日(水)10時36分
ダニエル・グロー(欧州政策研究センター研究部長)
インフレ率低下と米FRB

インフレ率は下がってきたが(ワシントンのFRB本部ビル) CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

<そもそも今回のインフレの元凶は「パンデミックとウクライナ戦争」ではない。状況を正しく認識すれば今後の道筋も見えてくる>

新しい年が明けたら急に金融市場の空気が変わった。アメリカのFRB(連邦準備理事会)とヨーロッパのECB(欧州中央銀行)は1年以上もせっせと金利を引き上げてきたが、今は誰もが、いつ引き下げに転じるかと気をもんでいる。

かつて急上昇していたアメリカとユーロ圏のインフレ率は既に急下降し、今や各国中銀の目標値(2%)に近づいているからだ。

インフレが終わったと結論する前に、まず私たちはなぜインフレが起きたのかを理解する必要がある。

答えは明白だ。2022年から23年にかけての急激な物価上昇は外的要因、とりわけサプライチェーンの寸断とエネルギー価格の上昇によるもので、その主たる原因は新型コロナのパンデミックとウクライナ戦争にある──と思われるかもしれない。だがデータの示すところは違う。

原油価格の高騰や供給網の混乱(どちらもしばしばインフレの元凶とされる)は、実のところ長くは続かなかった。原油価格は数カ月でウクライナ戦争以前の水準に戻ったし、新型コロナ絡みの供給網の混乱も23年中にほぼ解消されていた。もしもこの2つがインフレの元凶だったとすれば、物価はもっと早くに下落して、今頃はマイナスのインフレ率に転じていたはずだ。

この2つの要因に影響されなかったサービス部門

だが、そうなってはいない。22年に品不足で高騰した原油や一部産品の価格は確かに下がったが、それ以外のほとんどの価格は上昇を続けた。とりわけサービス部門の価格は、22年のダブルショックにほとんど影響されなかった。

そもそもサービス部門の価格は主として人件費に左右されるもので、エネルギー価格とはあまり関係がない。だからサービス価格は、この間も着実に上昇してきた。

エネルギー価格が上昇した場合、それでも消費者物価指数を安定させたければ他の部門(主としてサービス部門)の価格を引き下げるのが一番だ。しかし誰もが知るように、サービス部門の(もともと高くない)賃金を引き下げるのは難しい。

新型コロナが始まる以前から、アメリカではサービス価格が年率2~3%の上昇を続ける一方、耐久消費財の価格は毎年少しずつ下がっていた。結果、年間のインフレ率は平均2.5%程度で推移してきた。

この微妙なバランスは、原油価格の高騰があった08年や13年にも維持されていた。だから最近のサービス価格の高騰(22年から23年にかけて7%アップ)を石油価格との関係で説明することはできない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中