最新記事

日本経済

日本国民の所得が増えないのは「企業が渋る」から 参院選に向け譲歩した岸田首相が本当にすべきこと

2022年6月20日(月)11時19分
リチャード・カッツ(東洋経済 特約記者 在ニューヨーク) *東洋経済オンラインからの転載

参院選を見据えた内容になってしまった

「参議院選挙が終わるまで待ってほしい」

不満の声を挙げた参加者の一部は、こう言われたという。官邸としては、具体的な救済策、特に税制や労働問題などに言及して、各省庁や利権団体の対立が表面化し、選挙で自民党が不利になることをおそれたのだろう。

例えば財務省は、新興企業の育成に必要な減税措置に繰り返し反対している。官邸は、年末までに「5カ年計画」を発表し、具体的な内容を盛り込むと約束した。しかし、複数の参加者と話をしたところ、そのプランが本当に充実したものになるのか、期待こそすれ、自信はあまりないといった様子であった。

ある関係者は、岸田首相が限られた政治資金を防衛費の増額に費やし、議論を呼ぶ経済対策のための資金を十分に残せないことを懸念した。また、自民党内の岸田派は比較的小さく、安倍氏や麻生太郎氏が率いる強力で保守的な派閥を疎外するわけにはいかないと強調する者もいた。

「聞き上手」が裏目に

岸田首相のリーダーシップのあり方がさらに事態を悪化させている。複数の情報筋による指摘によると、1つには岸田首相自身は以前から賃金問題に関心をもっていたものの、「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかったという。実際、このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案したと言われている。

さらに岸田首相は、安倍氏が集団安全保障で、菅義偉氏が脱炭素化で行ったように、自民党や官僚にいくつかの重要な優先事項を課しながら、トップダウン方式で指導できるような首相ではなく、「聞き上手」を自称する合意形成者である。

真の成長と分配による好循環を引き起こすには

さまざまな権力者の意見が異なる場合、岸田首相自身が解決策を押しつけるのではなく、権力者が妥協点を見いだせるように仕向ける。このスタイルは、ある状況下では生産的かもしれないが、岸田首相が主張するような大きな経済的「軌道修正」を生み出すことはできない。

では、参院選での勝利によって、岸田首相が年末に予定されている「5カ年計画」において、より積極的な主張をできるとなったらどう変わるか。その場合、真の「成長と分配の好循環」を引き起こすために、どのような手を打つことができるだろうか。

当初、岸田首相は前述のように、富裕層の株式所得に対する税率を引き上げることを提案していた。現在は一律20%である。その結果、主に投資によって年間1億円以上の所得を得ている人は、アッパーミドルクラスよりも全体の税率が低くなっている。

とはいえ、1億円以上の所得をもつ納税者は全体の0.01%程度に過ぎない。そのため、通常の所得税と同様、投資所得にもいくつかの区分を設けない限り、所得の平準化にはあまり効果がない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替が国民生活に与える影響分析し適切に対応=鈴木財

ビジネス

インドネシア、追加利上げ不要 為替相場は安定=中銀

ビジネス

原油先物は上昇、米原油在庫減少やFRBの利下げ観測

ワールド

独首相、ウクライナ大統領と電話会談 平和サミット支
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中