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日本は「北朝鮮より下の最下位」という不都合な真実 なぜ日本は対内直接投資が低いのか

2021年8月10日(火)08時57分
リチャード・カッツ : 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク) *東洋経済オンラインからの転載
東京都心の街並み

日本は外国企業から見て「魅力がない」市場なのか?  KAI PFAFFENBACH - REUTERS

なぜ日本は、北朝鮮のすぐ下位である、196カ国中196位という順位につける結果となってしまったのだろうか――。2019年のGDPに占める対内直接投資(FDI)の割合を示すデータのことだ。東京都の長年にわたる努力は功を奏さなかったわけである。

FDIは、外国企業による日本での新規事業立ち上げや、合弁事業の設立、既存日本企業の実質的、あるいは完全買収の際に発生する。FDI残高とは、何十年にもわたって累積されたFDIの総額だ。政府は今年6月に、2030年までにFDI残高を現在の比率の約3倍である12%まで増大させるという目標を採択した。しかし、過去の方策が失敗した理由を理解せずに、どうやって政府は正しい戦略を選択できるというのだろうか。

小泉時代から「成長戦略の一環」とされてきたが

FDIの増加は、小泉純一郎氏が首相だった時代から日本の成長戦略の一部とされてきた。これは、非常に理にかなっている。対内直接投資を増やさずして経済改革に成功した主要国はほとんどないからだ。成功談は、アジアの開発途上国から東欧の体制移行国にまで及ぶ。

また、この戦略は成熟経済にも効果を発揮する。日本人が北米に"移植"工場を設置した時の、デトロイトにおける自動車メーカーの発展を考えてほしい。デトロイトは、たとえ工場の組み立てラインの中断が必要となっても、欠陥を後から直すよりも、最初から防ぐほうが、コストがかからないことを学んだのだ。

外国企業が流入する際に経済に与える主な恩恵は、こうした企業がもつ高い効率性だけではない。それよりも、外国企業の新しいアイデアや戦略が、こうした企業にかかわるサプライヤーや顧客の業績を、また、日本の"移植"工場の事例では競合他社の業績までをも向上させる波及効果にあると言える。裕福な19カ国(累積FDI残高が1980年のGDP比6%から2019年のGDP比44%に増加した国)の調査では、FDIのレベルが高いほど、主に労働者一人当たりの生産量が向上し、経済成長が高まることを証明している。

小泉氏が2001年首相に就任した当時、FDI残高は典型的な富裕国ではGDPの28%であるのに対して、日本ではGDPのわずか1.2%だった。小泉氏は2003年に外国直接投資の倍増を約束し、2006年には、2011年までにGDPの5%という目標を設定した。ところが日本は、いまだこの目標を達成していない。

日本政府の「隠しごと」

顕著な進展はあった。2008年、FDIは4.0%に増加した。だが、その勢いは停滞。FDIを倍増するという、安倍晋三前首相の2013年の約束にもかかわらず、2019年時点、FDIの対GDP比はわずか4.4%にとどまっている。一方、他の富裕国の中央値は44%に上昇している。

さらに悪いことに、日本政府はIMF、OECD および UNCTAD(国連貿易開発会議)が使用する「directional principle」とは異なる「asset/liability principle」と呼ばれる計上原則を用いることでいかに成功していなかったかを隠している。

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