最新記事

人民元

人民元は2021年中に基軸通貨になるのか?

THE YEAR OF THE RENMINBI?

2021年3月2日(火)06時45分
アルビンド・スブラマニアン(元インド政府首席経済顧問、印アショカ大学経済学教授)、ジョッシュ・フェルマン(JHコンサルティング・ディレクター)

BLUE PLANET STUDIO/ISTOCK

<アメリカの信頼低下で魅力が減る米ドル。統治に課題は残るものの経済規模を増す中国。私たちは今、ドル支配の終わりと人民元時代の始まりを目撃しているのか。「Xデー」は近いのか>

(本誌「人民元研究」特集より)

人民元が基軸通貨になる──昨年11月、アメリカの著名投資家レイ・ダリオが下したそんな「予言」が世界の注目を集めた。

こうした予測を盛り上げようと、中国政府はこれまで独自の努力を繰り広げてきた。今や問題は、その時期だ。中国の野望の実現に必要な決定的転換は今年中に起こるのか。

基軸通貨の座をめぐる競争は美人コンテストのようなもの。問われるのは相対的な魅力だ。

世界各地のトレーダーや投資家は、入手可能な通貨のうち最も使い勝手がよく、最も強固な金融制度に支えられたもの、そしておそらく最も重要なことに、信用度の高い統治主体に裏打ちされたものを選択しなければならない。
20210309issue_cover200.jpg
近年ならではの現象は、二大大国である米中の統治主体がどちらも、自国の信用度低下を競い合っているように見受けられることだ。

相対的魅力は定量化が難しい。それでも正確に測定可能な基本要素がある。通貨発行国の経済規模だ。

「世界市場において重要な国の通貨は、その国より小規模な国の通貨より有力な国際通貨候補だ」と、経済学者のポール・クルーグマンは1984年に発表した論文で述べた。

言い換えれば、発行国が世界トップの経済大国であることが、国際基軸通貨にとっての「ハードウエア」だ。

明らかに、中国にはそのハードウエアがある。2013年以降、世界最大の貿易国になり、今や購買力平価(PPP)でアメリカを超えた。近いうちに実勢レートでもアメリカを追い抜く見込みだ。

本稿の筆者の1人であるスブラマニアンは、これらの点を根拠に人民元が米ドルと肩を並べ、いずれはしのぐ日が来ると約10年前に指摘した。

以来、中国は人民元の相対的魅力を飛躍的に高めてきた。中国経済はアメリカのGDPをはるかに上回るスピードで成長を続け、新型コロナ危機からより力強く回復している。

中央銀行の中国人民銀行はデジタル通貨の開発と試験運用を開始した。「一帯一路」経済圏構想に参加する途上国は、拡大する対中貿易や金融取引に人民元を使用し始めている。

とはいえ、ドルの根強い抵抗力も明らかだ。IMF(国際通貨基金)チーフエコノミストのギータ・ゴピナートらによれば今でも貿易決済ではドルが圧倒的に優勢で、国際的な資金提供でもドルの存在感が際立つ。

ドルが人民元に対して強さを持つ大きな理由は、米経済のハードウエアが強力な「ソフトウエア」に補完されている点にある。

アメリカには投資家の信頼感を下支えする各種のクオリティー、なかでも信用できる統治主体に裏付けられた強固な金融制度が存在する。これは中国にとって多くの課題が残る領域だ。

【関連記事】「中国・デジタル人民元は失敗する」と願望で分析しては、日本が危ない

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

タイ自動車生産、3月は前年比-23% ピックアップ

ビジネス

米500社、第1四半期増益率見通し上向く 好決算相

ビジネス

トヨタ、タイでEV試験運用 ピックアップトラック乗

ビジネス

独失業者数、今年は過去10年で最多に 景気低迷で=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中