最新記事

ビジネス

ビジネスの基本「スーツ」はコロナ禍を生き残れるか?

2020年10月21日(水)18時07分

「クライアントはパジャマ姿」

徐々にカジュアルウェアに移行していく動きは、ここ数年にわたって進んでいた。2019年には、オーダーメイドのスーツ姿がひしめくことで有名なゴールドマン・サックスでさえ、社員のドレスコードを緩和した。シリコンバレーに集まる人々の個性あふれるファッションスタイルについてはご存知のとおりだ。

だが、こうした変化をいっそう加速したのはCOVID-19(新型コロナ感染症)である。ビジネスウェアの苦境を尻目に、ゆったりとした衣類やスポーツウェアは売上高を伸ばしている。

1ヶ月に900万人以上のオンライン購入者の行動を分析しているグローバルなファッション検索サイトであるLyst(リスト)によれば、世界の大半がロックダウン状態となった今年第2四半期、最も多く検索されたブランドはナイキだったという。

注目ブランドと商品のランキングを示す「Lyst Index」が誕生して以来、高級ファッションブランドが首位にならなかったのは今回が初めてだった。

8月1日までの3ヶ月間で、Lystで最も人気の商品とされたシリーズは、ギャップ傘下でタイツやジョギングパンツ、スウェットシャツやワークアウト用のトップスを販売する「アスリータ」だった。

ウェブサイト上の価格を調査しているスタイルセージがまとめたデータによれば、フランス、イタリア、ドイツで9月に最も値引率が高く、売上が伸びなかったアイテムの1つがスーツである。

最も値引率が高かったのはエイソス、トップマン、ゲス、ヒューゴボスといった低・中価格帯のレーベルで、最大で50%にも達した。

ビジネスウェアに対する需要の崩壊により、この夏はジョス・エー・バンク、ジェイクルーまで含む著名なアパレル小売企業が破産を申請し、他の多くも不確かな未来に直面している。

小売りコンサルタント企業のコアサイト・リサーチの予測では、米国では2万~2万5000店が年末までに閉店する可能性があるという。2019年には約9800店だった。

ロンドンの法律事務所メイヤーブラウンのパートナーであるジェームス・ウィテカー氏は、「正直なところ、今年はまったくビジネスウェアを買っていない。実際、シティを歩いていてもスーツのディスプレイを見かけることは少ない」と話す。

男性向けのオーダーメイド・ファッションで有名なロンドンの通りサビルロウで腕を磨いたテーラー、ジャスパー・リットマン氏にとっても、ロックダウンが終った後でさえ、ビジネスは「非常に不調」だという。

リットマン氏によれば、弁護士やバンカーを中心とするクライアントは「パジャマ姿で、家で仕事をしている」という。

例年なら年間約200着のスーツを仕立てるリットマン氏だが、2020年は、これまでのところ63着に留まっている。

前金を払ってすでに出来上がったスーツでさえ、顧客はわざわざ電車に乗って引き取りに来ることをためらっている。

「そんなことをする意味は無い。着る可能性のないスーツなら届けてもらう方がいい」

(Silvia Aloisi記者、 Jonathan Barrett記者、Martinne Geller記者、 翻訳:エァクレーレン)

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が短距離ミサイルを発射、日本のEEZ内への飛

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中