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中国は世界一の「インフルエンサー経済」大国である

2019年12月10日(火)19時10分
高口康太(ジャーナリスト)

――賀詞さん自らもインフルエンサーだったわけですね。どういう人がインフルエンサーになるのでしょうか?

いくつかのパターンがあります。自分の興味があるテーマがあり発信力がある人がインフルエンサーとなり、我が社に所属するというケースが1つ。もう1つのケースはプロジェクトに合致する人物を探して、インフルエンサーになるよう説得するケースです。

――まったくのゼロからインフルエンサーを育てるわけですね。

その通りです。フォロワーがたくさんいる人をただ獲得すればいいわけではありません。旅や美食など、MCNとして押さえておきたいジャンルがあるので、適切な人がいなければ育てるしかありません。

それにソーシャルメディアの移り変わりという問題もあります。速報醤は微博を主力としているMCNですが、新しいメディアを取り込む必要があるため、今は抖音(ドウイン、動画アプリTikTokはその海外版)のインフルエンサーの獲得、育成に力を注いでいます。

――テキスト中心の微博(登場時は中国版Twiterとも呼ばれた)から微信(ウィーチャット、チャットアプリ)、抖音へと、流行は変化していますね。

その通りです。微博で人気だったインフルエンサーが他のソーシャルメディアでも成功できるとは限りません。微博は短文と写真で作るので参入ハードルは比較的低かったのですが、微信で成功するには長文を読ませる文章力が必要になりますし、今一番の成長分野である抖音では適切なテーマと台本という企画力が不可欠です。速報醤ではこうした制作面でもサポートしています。

私はもともとエンジニアとして働いていたので、その知識を生かして管理ツールを作っています。その中で、日本の最新トレンドを収集しインフルエンサーにこのネタはどうかと提案するわけですね。抖音の場合には台本までお手伝いするケースもあります。

――大変な仕事量のようにも思えますが、インフルエンサーにそれだけの経済的価値はあるのでしょうか。

中国では新しいトレンドの多くがインフルエンサーから生まれます。当社所属の「日本潮流少女志」は日本のファッショントレンドを扱うインフルエンサーですが、原宿系やロリータファッションを中国で広める起爆剤となりました。

――多くの日本企業が高成長の中国市場に期待しています。インフルエンサーを活用すれば、無名のブランドでも中国でポジションを獲得できるのでしょうか。

残念ながら、そう簡単な話ではありません。インフルエンサーは強力なマーケティングチャネルですが、有力インフルエンサーを起用するコストは非常に高く、中小企業が簡単に手を出せる金額ではありません。

ただ、「これさえやれば絶対に売れる」というお手軽な手段はありませんが、中国市場にチャレンジしないのは日本企業にとって大きな機会損失です。

そこで当社では、日本のネットマーケティング企業クロスシーと提携し、インフルエンサーによる中国市場アプローチを比較的低コストで試せるようなプランを出しています。300万フォロワーを有するトップアカウントを含め数十万円から出稿できるようになっています。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。著書に『幸福な監視国家・中国』(共著、NHK出版新書)、『中国S級B級論――発展途上と最先端が混在する国』(編著、さくら舎)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。

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