最新記事

為替

ドル/円高値更新も盛り上がらず ユーロに奪われた「調達通貨」の座

2019年11月28日(木)16時38分

キャリー取引、調達通貨はユーロに

市場でもう1つ、ドル/円の値動きが鈍い一因として話題となっているのは、キャリー取引に使われる調達通貨としての円の需要が減退していることだ。

各国の金融緩和でマネーがあふれるグローバル市場では、株や債券などいずれの市場でもボラティリティーが低下している。低金利で低変動率となれば、投資家の選択肢は低金利通貨で資金を調達、少しでも金利の高い通貨で一定期間保有し、値幅取りより金利収入を狙う、キャリー取引に傾きがちとなる。

長らく低金利政策を続けてきた日本円はこれまで、調達通貨の代表格だった。「グレート・モデレーション」と呼ばれたリーマン・ショック発生前の2007年、10年金利が7%近かった豪ドルが対円で100円を超えていたのは、その典型だ。

しかし、世界的な低金利は、その状況に変化を及ぼしている。低金利が当面続くこと、いつでも持ち高を解消できる高い流動性、突発的な政策変更リスクが小さいことなど、調達通貨に必要な条件を備える候補が、他にも出てきたためだ。

その筆頭がユーロ。欧州中央銀行(ECB)は9月に利下げや量的緩和(QE)の再開など、包括的な追加金融緩和策の導入を決定した。新総裁に就任したラガルド氏も「金融政策は引き続き経済を支援する」と明言するなど、継続的な低金利政策を前面に掲げている。

結果として市場では「海外投資家がキャリー取引を試みる際、あまり馴染みのない日本円より、もし使えるならと身近なユーロを調達する機会が増えてきた」(外銀幹部)という。ユーロの総合的な値動きを示すユーロ指数<=EUR>は、2年半ぶり水準へ下落している。

JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長、佐々木融氏は「もともとドルも円も広義の調達通貨だったが、2000年を過ぎた頃から、円金利の極端な低さに注目が集まって円の売買が活発となり、ドルを上回る動きを見せることが多くなった」と振り返る。そのうえで「ECBがマイナス金利を採用した16年以降、短期的なキャリートレードの調達通貨は、円よりユーロの方が適格となった」と指摘。円相場の振幅を抑制していると解説している。

(編集:青山敦子)

基太村真司

[東京 28日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191203issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月3日号(11月26日発売)は「香港のこれから」特集。デモ隊、香港政府、中国はどう動くか――。抵抗が沈静化しても「終わらない」理由とは? また、日本メディアではあまり報じられないデモ参加者の「本音」を香港人写真家・ジャーナリストが描きます。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ロシアの制裁逃れ対策強化を、米財務長官が欧州の銀行

ビジネス

中国の若年失業率、4月は14.7%に低下

ワールド

タイ新財務相、中銀との緊張緩和のチャンス 元財務相

ワールド

豪政府のガス開発戦略、業界団体が歓迎 国内供給不足
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中