最新記事

資源

アフガンを救いに舞い降りたウォール街

4000億ドルを投じたJPモルガンの金鉱開発計画は、米政府の期待通りアフガニスタンに安定をもたらすか

2011年5月24日(火)18時18分
デービッド・ケース

復興のカギ 鉱山で安定収入が得られれば、タリバンに走る住民も減る(カブールの北170キロの炭鉱) Ahmad Masood-Reuters

米軍がアフガニスタンに侵攻した2001年以来ずっと、アメリカ政府はある希望を抱き続けてきた。アフガニスタンに眠る豊富な天然資源を採掘できれば、瀕死の経済を建て直し、アヘン依存症の国家の改革が進められる、という希望だ。

ニューヨーク・タイムズ紙は昨年、やや先走り気味にこう報じた。「アメリカはアフガニスタンで1兆ドル近い未開発の鉱床を発見した。米政府高官らによれば、これまで知られていた鉱床をはるかに凌ぐ規模で、アフガニスタン経済と、おそらくはアフガン戦争そのものまで根底から変える力を秘めている」

問題は、鉄や銅、レアアース、そして金がどれだけ埋まっていようとも、採掘して市場に出回らないかぎり、その価値はゼロだということ。戦争で荒廃し、貧困に苦しむ反米ムード一色の山岳国での採掘作業に、カネと命を賭けて挑む人が果たして存在するのだろうか。

この難行に名乗りを上げたのが、なんとウォール街だった。フォーチュン誌5月23日号によれば、大手投資銀行JPモルガンがアフガニスタンの資源開発に挑むという。

米軍もブラックホークで協力

JPモルガン・キャピタル・マーケッツのイアン・ハナム会長に同行して未来の金脈を視察したフォーチュン誌のジェームズ・バンドラー記者によれば、ハナムはアフガニスタンでの金鉱採掘のためにヨーロッパやアジア、アメリカの投資家から4000万ドルを調達している。長い歳月をかけて精製と出荷のシステムが完成した暁には、5メートルトンの金(2億ドル以上に相当)が生産できると見込まれている。

JPモルガンは自ら出資してはいないものの、このプロジェクトに多大なエネルギーを投じてきた。アフガニスタン駐留米軍のデービッド・ペトレアス司令官もハナムを精神的にサポートしており、ハナムがフォーチュンの記者を伴って採掘予定地を訪れた際には、米軍ヘリのブラックホークを自由に使わせたようだ。

ハナムの挑戦が成功し、他の投資家もアフガンの鉱山開発に乗り出すことを米軍は期待している。タリバンが協力者に支払う報酬はわずかな額とはいえ、タリバンの人材獲得の強力なツールとなっている。鉱山開発は、地元住民に安定した職と定期的な収入をもたらしタリバンから引き離す大きなチャンスだ。

JPモルガンが投資家から募った4000万ドルという金額は、アフガニスタンでは法外の巨額だが、ウォール街では小さな取引にすぎない。JPモルガンの2万5000人の社員のボーナスを合計すると、人口3000万人のアフガニスタンのGDP、170億ドルの半額以上にも達するのだから。

資源開発は慈善事業?

 アメリカから遠く離れた地での小規模な投資にも関わらず、ハナムは首都カブールから80キロほど離れた採掘予定地のテープカットセレモニーに出席した。同行したバンドラー記者によれば、ハナムは「西側パワーのソフト面を体現した人物。投資家に大きな見返りをもたらしたいと願う一方で、資源開発は慈善事業だと語っている」という。

 記事ではさらに、ハナムがかつてイギリス軍の特殊部隊員だったことにも触れている。彼を知る人々に言わせれば「教養が足りず、自分の富を自慢する。テーブルマナーは最悪だ」という。実際、アフガニスタン政府との交渉でも、ハマムは次第に利潤追求に走るようになり、慈善家としての顔は薄れつつある。

 フォーチュンの記事は興味深い冒険談だ。だが、外国資本による鉱山開発がもたらす富が、本当にアフガニスタン国民の元に届くのだろうか。この手のプロジェクトは往々にして地元住民の期待を煽った挙句、大した利益をもたらさないもの。その結果、緊張が高まり、さらなる衝突が生まれる。

 貧困に苦しむ人々の目の前で金鉱を掘るのは、ソマリアの首都モガディシュに宝石店ティファニーをオープンさせるようなもの。喉から手が出るほどカネが必要な人々が群がり争うのは避けられない。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中