オンナの財布が会社を救う
『SATC2』に登場すればパソコンだって自動車だって売れるのに、自社製品を救うのが女性だと気づいていない会社が驚くほど多い
服だけじゃない 映画『セックス・アンド・ザ・シティ2』でプロダクト・プレースメントの広告手法に起こった重要な変化とは ©2010 New Line Productions, Inc. and Home Box Office, Inc.
断っておくと、これは公開中の映画『セックス・アンド・ザ・シティ2』をすすめる記事ではない。映画自体は続編にありがちな評価どおりと言えば十分だろう。
それはさておき、映画を見た人はプロダクト・プレースメント(映画やテレビ番組の中で商品を露出させる広告手法)で重要な変化があったことに気付いたかもしれない。靴がマノロ・ブラニクからクリスチャン・ルブタンのスパイクヒールになったことではない。キャリーたちのパソコンが、アップルからヒューレット・パッカード(HP)に変わったのだ。
ヴィヴィアン・タムがデザインしたHPのマシンに、多くの女性は興奮するに違いない。外観は美しいコンパクトのよう。キーボードの感触はまるでピアノの鍵盤だ。
人気のファッションアイテムと同じように、価格設定はかなり強気。ミニノートPCとしては基本的な仕様ながら599ドルで、利幅もかなり高い。
景気が悪い時期でも女性市場でなら成功の可能性があるのではないかと、注目している企業はHPだけではない。一連の金融危機の前から、女性の経済力は国の経済力を問わず伸びていた。
特にアメリカでは、景気低迷が女性たちをことさら元気にした。職を失ったのは男性のほうが多く(主な理由は、金融サービスや製造業など打撃が最も大きい分野で働く男性が多かったから)、起業した人は女性のほうが多い。
男女の収入格差も縮まり続けた。今やアメリカの共働き家庭の35%は、妻のほうが高収入。5年前は28%だった。このペースでいけば、2024年には平均的な女性は男性より多く稼ぐようになるだろう。途上国や主な新興市場の大半でも、同じような傾向が見られる。
コモディティー化を逃れる味方
驚きなのは、これに気付いていない会社が多いことだ。食べ物や消費財、衣料など女性中心の分野は、顧客の中核に訴えてそれなりの成果を挙げている(数年前にアメリカで、ユニリーバのスキンケアブランド「ダブ」があらゆる体形の女性をたたえる広告を展開し、売り上げを600%伸ばした)。
しかし自動車や旅行、ヘルスケア、家電製品など、購買決定権の大半を女性が握っているのに、商品開発やマーケティングで女性が後回しにされている分野は、まだいくらでもある。
「大手企業でそれらの判断を下す人の多くは年配の男性だ」と、近著『影響』で女性の経済力の成長について書いた人口統計学者マディ・ダイクワルドは言う。
とはいえ、テクノロジー業界では変化が見え始めた。利益率が下がる一方の電気製品は、コモディティー化(機能やブランドなど商品の特性が失われ、日用品化すること)が大問題になっている。
女性は男性に比べて、気に入った商品ならば価格が割高でも構わないと考える傾向がはるかに強い。特に美意識や感情に訴える魅力がものをいう。
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)によると、アップルはあらゆる部門で女性に最も人気の高いブランドだ。「テクノロジー業界で実質的に利益を上げている会社がアップルだけなのも偶然ではない」とBCGの共同経営者、マイケル・シルバースタインは言う。「美しい物を作る彼らは高い値段を付けられる」
HPは最近、自社の女性向け製品の特徴──仕上げが美しく、細部に官能的な魅力があり、照明が高品質など──をすべての製品に取り入れ始めた。任天堂のゲーム機Wiiは、フィットネス関連ゲームが年齢の高い女性層に人気だ。米家電量販店最大手ベスト・バイは女性客を意識して、買い物をサポートする「コンシェルジュ」サービスを始めた(アップルの直営店には以前からある)。