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資本主義、北朝鮮スタイル

2009年12月24日(木)15時14分
ジェリー・グオ(本誌記者)

1党独裁か利益の分け前か

 このテクノクラート・グループは今も外国との取引をある程度まで黙認している。エジプトの通信会社オラスコム・テレコムは昨年、北朝鮮国内に大規模な携帯電話サービスを提供する初の契約を締結。音声通話と携帯メール・サービスの料金は平均月額22ドルだが、09年1〜9月に6万9000人の加入者を集めた。

 当局の取り締まりが中途半端になっている大きな理由は、おそらく最高権力者の考えが揺れているためだ。金正日は朝鮮労働党の1党支配にほころびが生じる事態を強く恐れている一方、対外貿易による利益の分け前も欲しがっているとみられている。

 健康不安がささやかれる67歳の金正日の死後、権力闘争が始まるのは間違いない。改革支持派はそこで重要な役割を演じることになるかもしれない。

 ポスト金正日の1人と目されているのが、総書記の義弟でもある張成沢(チャン・ソンテク)朝鮮労働党行政部長だ。まだ若い金正日の息子の1人が「王位」を継げるようになるまで、この人物が後見役として権力を振るう可能性がある。

 年齢は63歳。北朝鮮の基準でいえばまだ若手の政治家だが、既に第2の実力者とみられている。何度もアジア各国に出掛けて民間企業を視察していることから、改革派の1人と見なしていいと、張成沢と会ったことがある2人の韓国人消息筋は指摘する。

 最高権力者の座をめぐる北朝鮮国内の争いは、多くの点でかつての中国に似ている。このお隣の大国では78年、新世代の共産党幹部たちが改革開放政策を開始した。

 この中国の経験が示唆しているのは、市場寄りの改革が一旦始まれば、後戻りはほとんど不可能だということだ。今のところ北朝鮮の改革派は、頭を低くしている必要がある。だが浮上のチャンスが来れば、成長する国内の民間部門から強力な支持を集める可能性が高い。

[2009年12月 9日号掲載]

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