中国経済3つのシナリオ
確かに中国政府は金融緩和策で景気後退に先手を打った。しかしそれが結果的に信用バブルを招き、今まさにはじけようとしている。政府が銀行融資の抑制に動くとの懸念が浮上すると、上海株は下がり始めた。8月には株価が22%も急落。今後さらに下落するとの予測もある。
政治的安定が続く限り中国共産党も消滅しないことは、バブル崩壊派も認めている。しかし中国は新疆ウイグル・チベット両自治区に潜在的な火種を抱えている。労働者の暴動は絶えず、環境破壊もひどくなる一方だ。そうした不安定な状況で、これまでと同じような経済発展が続くと考えるのは賢明ではない。いつか破綻する──バブル崩壊派はそうみている。
私はというと、3つ目の見方を支持している。これは、成長維持派もバブル崩壊派も正しいという考え方だ。私たちは、19世紀後半から20世紀前半に世界経済の雄へと成長を遂げたアメリカと比較しながら、中国経済をみている。他国から隔絶された地理的優位性もあり、当時のアメリカは思いどおりに移民と資源を受け入れ、製品を輸出する「マシン」だった。
1890年まで、アメリカ経済は規模も生産力も世界一だった。だが当時は、アメリカにとって平穏な時代ではなかった。移民の増加は都市部で人種問題を生んだ。農業経済から工業経済への移行は、労働者と農家、資本家の間に激しい闘争を引き起こした。金融業界が成熟していなかったため、何度も景気後退や不況に見舞われた。
最悪なのは「経高政低」
中国が莫大な富と権力を集積させながらも、深刻で不安定な国内問題に苦しめられている状況には、何ら矛盾はない。もっとも、世界にとっては良いこととは言えない。
中国が着実に成長を続ければ、世界を豊かにする大国の役割を果たすにもさほど苦労しないだろう。逆に成長に陰りが見えた場合は、国際社会で発揮できる指導力は低下するが、同時に期待される度合いも低くなる。
誰にとっても最悪なのは、中国が経済成長を続けながら内政的には脆弱というケースだ。他国は中国に大国として振る舞うよう期待するが、中国の指導者たちは期待に応えるには自分たちは弱く、もろ過ぎると考えてしまう。
20世紀初めの40年間、アメリカは国内問題にばかり必死になって、世界で果たすべき役割を認識できなかった。その後はより積極的に国際情勢に関わるようになったが、それまでに要した長い年月は世界にとって大きな痛手だった。
中国が同じ過ちを繰り返さないように願いたい。
[2009年10月14日号掲載]