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EU離脱後のイギリス、必要なのは「ホテル・カリフォルニア」戦略
国民投票で欧州連合(EU)離脱という道を自ら選択した英国にとって、英国とEU双方の経済・政治的なダメージを最小限に抑えるためのベストな選択肢は、「ホテル・カリフォルニア」モデルをとることだ。
1977年のイーグルスのヒット曲は「いつでも好きな時にチェックアウトできるけれど、ここから離れることはできない」と歌っている。
この有名な曲にあるように、英国はEUから「チェックアウト」する一方、ノルウェーのように欧州経済領域(EEA)に参加することで、実質的にEUに半分とどまる、という道もある。英国は外交や安全保障における政治協調の強化を交渉したり、一部のEUの討議において、投票権はないものの、意見表明することはできるかもしれない。
ただしこの次善の策は、実現可能性は低い。
崩壊状態の英政治指導部が、国民投票の民意に沿った形で、EUとの関係における国益を再定義するまでには、何カ月もかかりかねない。
英国は今後、離脱手続きを定めたEU基本条約(リスボン条約)50条に基づきEUに離脱を通知するが、キャメロン首相がすぐに通知して「チェックアウト」することをためらっているのは、これが理由だ。
金融・経済界はEU単一市場へのアクセス維持を望む声が圧倒的だが、これは同時に、EUの規制や、労働者の移動の自由を受け入れることを意味している。経済界は与党・保守党の重要な資金源になっていることから、次期首相選びにも一定の影響力を及ぼすことは間違いない。
一方で、国民投票で離脱派が勝利した背景には、EU諸国からの移民への怒り、国境や立法問題で主権を取り戻したいとの欲求があった。
つまり、経済界の希望と民意は、逆方向を向いている。
キャメロン首相は、EUに通知し離脱協議を始めるという毒杯を後任に託した。主な次期首相候補は、通知を急がない構えを示している。
後継レースに出馬したゴーブ司法相とメイ内相はともに、年内通知を否定。今後の関係をめぐる条件についてまず、非公式に交渉することを望んでいる。ゴーブ司法相は離脱に向けた具体的な日程には触れず、メイ内相はブレグジットには数年かかかるとの見方を示した。
これに対して、不透明感が長引くことを回避したいEU側は、2019年欧州議会選のキャンペーンが始まる前の決着を望んでいる。
よってEUは、早急に離脱通知を行うよう英国を急かしており、通知前の事前交渉には応じないと警告している。EUは初の英国抜きの会合で、単一市場へのアクセスを得るにはモノ・資本・労働力・サービスの移動に関する「4つの自由」を尊重する必要があることを確認した。
<単一市場の門の鍵を持つのはEU>
英国の政治家は、交渉を長引かせれば優位な取引ができる、と考えている節がある。ただ、EUは離脱通知を英国に強制することこそできないが、カードの大半を持っているのはEUだ。EUは単一市場の門の鍵を持っているが、離脱を決めた英国はもはやその鍵を持っていない。
不透明な状況が長引けば、英国への投資が冷え込み、金融機関はシティから逃げ出してしまうかもしれない。EUのある高官は「英国がEU離脱通知を遅らせば遅らせるほど、事実上のブレグジットが加速する。マネーは既にロンドンから流出し始めている」としている。
しかし一部の離脱派政治家は、困難な選択から目を背けている。彼らは、EUが英国に不利な扱いをするはずがない、と信じ込んでいる。
キャメロン内閣で主な離脱派論客のクリス・グレーリング氏は、ロイターとのインタビューで、英国と「分別のある」通商の取り決めをすることはEUの利益にもかなうことだと強調。「これは同時に、EUの英国市場へのアクセスという問題でもある」との見方を示した。
英独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ党首は欧州議会で「EUが英国との適切な通商協定を拒否するのであれば、その結果は英国にとってよりも、EUにとってずっと悪いものになる」と警告した。
英国の民意が移民・難民の規制強化にあることから、次期首相候補は単一市場へのアクセス維持をあきらめつつあるように見える。ただ、国際金融機関やエコノミストが予想するように、リセッションや雇用喪失、為替相場の急変動が起これば、その考えも変わるかもしれない。
(Paul Taylor記者 翻訳:吉川彩 編集:吉瀬邦彦)