最新記事

知られざる在日米軍の素顔 <br>第4章──任務:ミグ殺し

在日米軍の真実

海兵隊の密着取材で見た
オキナワ駐留米兵の知られざる素顔

2010.03.31

ニューストピックス

知られざる在日米軍の素顔
第4章──任務:ミグ殺し

「レイプ」や「ヘリ墜落」でのみ語られる沖縄の兵士たち
極東の楽園でイラクや北朝鮮の幻影と戦う彼らの真実とは

2010年3月31日(水)12時02分
横田 孝(本誌記者)

任務は日本防衛 嘉手納基地のF15戦闘機パイロット(ハフ中尉(左)、ルイス中佐) Peter Blakely-Redux


普天間基地の移設問題で、在日米軍の存在が再び問われている。沖縄での犯罪や事故といった問題のみがクローズアップされてきた在日米軍だが、彼らの勤務実態や日々の生活はあまり伝えられない。米軍再編交渉を目前にした2005年春、海兵隊の野営訓練から米空軍F15戦闘機飛行訓練まで、本誌記者が4か月に渡る密着取材で見た在日米軍の本当の姿とは──。


 屋良朝徳(63)は定年後、海岸でのサイクリングや、北谷町にある「美浜アメリカンビレッジ」での無料足浴を楽しんでいる。屋良は、20万人が死んだ60年前の沖縄戦で両親を亡くした。米軍を敵視してもおかしくはない。

 「一人ひとりの米兵に反感はない。子供のころからここにいるから、彼らを見ると当時を思い出す」と、屋良は話す。問題なのは基地の存在であり、そこにいるのがアメリカ人か日本人かは関係ないという。

 それは米兵たちもわかっている。「もちろん、米軍の存在に憤っている人たちもいるだろう」と、リーチ上等兵は言う。「でも同時に、俺たちは沖縄の人たちをサポートしようとしている。生活の邪魔をせずに、だ。米軍がいるから、沖縄は攻撃される心配がない」

 その点は議論の余地がある。北朝鮮は、朝鮮半島で再び戦争が起きれば、沖縄の米軍基地を攻撃すると警告している。

 冷戦当時、米軍の存在が地域に力の均衡をもたらし、平和主義の日本に対する攻撃を抑止した。だが今では東アジアの安全保障は日米双方にとって困難なものになっている。北朝鮮は核保有を宣言し、急速な軍拡を進める中国は、台湾独立の動きがあれば武力で阻止する姿勢を明確にしている。

 ここに米軍駐留のジレンマがある。沖縄の基地、とくに嘉手納空軍基地は、紛争が起きる危険性のある地域に近いため、「太平洋の要石」と言われる。嘉手納所属の第44戦闘中隊司令官、ウィリアム・ルイス中佐も、こう言う。「台湾、中国、朝鮮半島は射程距離内」だ。だがそのせいで沖縄が標的にされると、地元の人々は心配している。「北朝鮮と戦争になれば、沖縄の米軍基地は攻撃されるだろう」と、屋良は言う。「戦争になると、みんな正気でなくなる」

 第44戦闘中隊の本部へ行く途中に、1軒のバーがある。名前は「バットケーブ(コウモリの洞窟)」。中隊のあだ名が「バンパイア」だからだ。バーの壁には、パイロットの名前入りのビアマグがかけられ、冷蔵庫には飲み物がぎっしり。壁にはF15戦闘機とパイロットの写真も張ってある。テーブルにはこんな走り書きもあった。「ミグ殺しに力を合わせよう」。Killing MiGs is a team effort(ミグはロシア、中国、北朝鮮が使用する戦闘機)。

 バンパイアの発足は41年。日本との間には長い歴史がある。真珠湾で零戦に戦闘機の大半を破壊され、ソロモン諸島では日本軍を玉砕に追い込んだ。

 60年後の今は、その日本を守っている。「任務は日本の防衛だ。日本から要請があれば、それに応じる。(中国や北朝鮮が)何かしたら、たたきのめすまでだ」と、F15戦闘機のパイロット、ハフ中尉は言う。

 兵士には、アメリカ外交の道具であるというジレンマがつきまとう。「大統領が選出された時点で、私は大統領とその意思を忠実に守る。それが民主主義だ。国民がリーダーを選ぶんだから」と、ハフは言う。「でも決定は合法的であることが大前提だ。大統領が大量虐殺を命じたら、『何ですって?』と聞き返すさ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中