最新記事

オバマはハイチの大統領か

ハイチ大地震

M7.0に直撃された
最貧国の惨劇と国際支援のあり方

2010.01.22

ニューストピックス

オバマはハイチの大統領か

2010年1月22日(金)12時07分

 ジョージ・メイスン大学の経済学者タイラー・カウエンは、バラク・オバマ米大統領の政治生命がハイチの混沌に左右されることになりかねないと懸念する


 オバマは今や一期限りの大統領で終わる可能性が高くなった。海外援助は、財政負担が少ない割には不人気だ。(保守派の人気司会者)ラッシュ・リンボーたちがいつもにも増して汚い攻撃を始めていることにお気づきだろうか(たとえばこのサイトによるとリンボーは、アメリカはハイチを救援する必要などないのにオバマは黒人ウケを狙ってやっていると公言している)。人々がオバマは「(内政より)よその黒人を優先している」とささやき始めるのはいつのことか、アメリカ人の民度が試されている。

 イラクやアフガニスタンからの撤退が容易ではないように、ハイチから手を引くのもそう簡単ではないだろう。

 医療保険改革は難題と思えたかもしれない。いやそれも、温室効果ガス削減のためのキャップ・アンド・トレード方式導入に比べればましだと思った人もいるだろう。だが、ハイチ救援はそれらよりはるかに大きな難題となるかもしれない。何しろこんなことは、誰の計画にもなかったのだから。オバマが多くの支持を得られないのは、この戦いでも同じだろう。多くの民主党系の利益団体も心の中で、オバマがハイチのことなど忘れてくれたらと願っているかもしれない。

 夜のニュース番組で大規模な飢餓が中継されれば、オバマのイメージも悪くなる。人口が900万人を超える国家の崩壊を取り仕切る立場とは、いったい何を意味するのだろう。それを思い知らされようとしているのは、日増しに無力さをさらけ出しているハイチの大統領ルネ・プレバルではなく、オバマだ。ハイチの人々が一心に見詰めているのは、オバマ大統領なのだ。


住民に歓迎される本物の貢献

 コラムニストのケビン・ドラムは、左派系の雑誌マザー・ジョーンズのブログで反論する。アメリカがハイチに投じる資源は「金額的にも軍事的にも、政治的に深刻な火種になるほど大きなものにはならないだろう」。

 わかりきったことを言うようだが、イラクやアフガニスタンと違って、ハイチの米軍は現地住民から攻撃を受けてもいないし、おおむね歓迎されているようだ。もちろん、アメリカだけでハイチの国家機能を回復したり人道的大惨事を防ぐことなどできない。きっと、他の国々も立ち上がって負担を分担してくれるだろう。

 それでも今後の数週間、被災者の想像を絶する苦しみを軽減する上でアメリカが大きな力を発揮できるのは間違いない。国内の政争がその妨げにならないことを祈ろう。少なくとも理想の世界では、アメリカの力はこういうときのためにこそあるのだから。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年01月20日(水)13時43分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 21/1/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中