最新記事

オバマは海自給油中止を認めよ

オブザーヴィング
民主党

気鋭の日本政治ウォッチャーが読む
鳩山政権と民主党ニッポンの進路
by トバイアス・ハリス

2009.09.14

ニューストピックス

オバマは海自給油中止を認めよ

民主党がこれまでの自民党政権が築いてきた日米関係のあり方に懸念を示すのはもっともだ

2009年9月14日(月)18時31分

[2009年9月11日更新]

 米国防総省のジェフ・モレル報道官は9月9日の会見で、日本の新政権についてこう発言した。「アメリカも世界も、日本のインド洋上での給油活動から多大な恩恵を受けてきた。われわれは活動を継続するよう強く働きかける」

 このやや強めの発言を除けば、モレルは米政府のいつもの見解を繰り返した。つまり、選挙期間中と現実の政権運営は違う。鳩山新政権には、自民党時代と変わらぬ米日関係を淡々と維持してほしいという希望的立場を述べるに留まった。実際、モレルは総選挙直後に国防総省当局者が匿名で語った、給油を継続するかどうかは「日本政府が決めることだ」という発言には一言も触れなかった。

 藤崎一郎駐米大使は10日の記者会見で、前日のモレルの発言を批判し、「日本の国際貢献は日本が主体的に判断していく」と述べた。

 オバマ政権がこれまで送ってきたシグナルを考えると、モレルの発言は異例だった。米政府のアフガニスタン・パキスタン問題担当のリチャード・ホルブルック特別代表は訪日した際、はっきりとこう述べた(過去に私のブログでも紹介した)――米政府は、自衛隊員よりもカブールとイスラマバードでの経済援助や文民支援を望む。オバマ政権はブッシュ政権の路線と決別したいのだろう。ブッシュ政権が強調した象徴的な貢献にたまたま自衛隊が入っていたという時代を終わらせることで、日本が(主体的に判断して実質的な貢献ができる)いわゆる「普通の国」になりつつあると示唆したいのではないか。

 鳩山政権が給油活動が期限切れを迎える来年1月以降は延長しないと決断しても、オバマはこの決定に横やりを入れるなどという愚かな行動に出るべきではない。モレルや自民党の外務・防衛大臣の主張はともかく、インド洋の給油活動はアフガニスタンの地上に派遣された多国籍軍の意義ある活動に比べると、最初から象徴的なジェスチャーにすぎなかった。海上自衛隊が給油しなくても多国籍軍は活動できたはずだ。

消せない「湾岸戦争のトラウマ」

 私はずっと、給油活動は未来というより過去に縛られたものだと考えてきた。テロ特措法が成立したのは、9・11テロからわずか1カ月半後。これにより、小泉純一郎首相(当時)は湾岸戦争のときの日本の「罪」を償おうとした。

 湾岸戦争当時、自民党幹事長だった小沢一郎は自衛隊の派遣を模索していた。しかし国会は多国籍軍の「砂漠の嵐」作戦に自衛隊を派遣すべきかという議論に何カ月も費やした末、海部政権(当時)が提出した法案を廃案に追い込んだだけだった。この結果、小沢と当時の大蔵大臣だった橋本龍太郎には「札束外交」と揶揄された選択肢しか残されず、以後10年にわたって、自衛隊を派遣しなかったことが失策として語られた。

 そして01年、小泉政権は10年前のトラウマを消し去る最初で最高のチャンスを手にした。この時、日本がもっと大胆な安保政策の転換を図っていたなら、より重要な年として記憶されただろう。だがイラク戦争への批判が高まり出すと、ブッシュ政権に言葉以上の支持を送ることは難しくなっていた(自衛隊がイラクのサマワに派遣されるまでどれだけ長い時間がかかったことか)。

 こうして日本は、インド洋の「ガソリンスタンド」という立場に終始することになった。9・11以後の日本は象徴的な貢献で、いつものように最もリスクの少ない道を選びながらも米政府から最高の謝辞を送られていた。

 それでも、現在この「札束外交」が実際に地上で役立っているのであれば、オバマ政権は大いに満足するだろう。米政府が鳩山政権による給油打ち切りに反対しても、得るものはないに等しい。それどころか、両国間のムードに影を落とすなど失うもののほうが多い。

 象徴的な任務を打ち切ることは、民主党が自分たちの手で日米同盟を変化させたと誇示するのに絶好の機会だ。米政府に脅されて「要請されれば」何でもやるという日本の立場を変えるのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中