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オバマのアメリカ
チェンジを掲げた大統領は
激震の超大国をどこへ導くのか
アフガニスタンは「オバマのベトナム」
パキスタンの二つの顔
パキスタンはアルカイダについてアメリカと情報を共有し、国内のタリバンへの攻撃も行ってきた。しかし軍統合情報局(ISI)は、アフガニスタンにいるタリバンの一派と裏で手を結んでいる。宿敵インドと親密な関係をもつアフガニスタンの軍備を弱いままにしておけば、パキスタンには戦略上の利益になるからだ。パキスタンの多くの指導者は、アメリカはいつか去っていくと考えており、アメリカとタリバンの両方にいい顔をしようとしている。
二つの顔を使い分けているのはパキスタンだけではないかもしれない。シーア派が主流のイランはスンニ派のタリバンと敵対しているが、タリバンに高性能の簡易爆弾を提供している可能性がある。自国との国境地帯で米兵が苦しむ姿を見たいとイランが思ったとしても、まったく不思議ではない。
だが、アフガニスタンの米軍にとって最大の敵は米軍自身なのかもしれない。少ない兵力で広大な地域を監視しているため、米軍は空爆に頼りすぎている。04年にアフガニスタンで実施した空爆は86回だったが、07年には2926回に増えた。
ベトナム戦争以降、米軍は民間人の犠牲を出さないよう実に慎重になった。もう無差別発砲は許されないし、米兵がジッポーのライターで村に火をつけることもない。
しかし、どんなに慎重を期しても、民間人の犠牲は避けられないものだ。とりわけ敵が民間人を盾のように使っているときは、その危険性がさらに増す。かつてNLFはそれをやり、今はタリバンが同じ戦術を用いている。
これが中央軍司令官のぺトレアスが直面する現実だ。イラク戦争で名を上げた彼は、アフガニスタンではまだ新戦略を打ち出していない。アフガニスタンで勝つには莫大な費用と時間がかかることに、オバマが気づくのを待っているのかもしれない。
そのぺトレアスとともにアフガニスタン問題を任されるのが、ベテラン外交官のリチャード・ホルブルックだ。特使として国務省から派遣されるホルブルックは、効果的な援助の実現や、政府と軍の意見調整に取り組むことになる。実力派ではあるが、ベトナムで和平工作に取り組んだロバート・コーマーと同じような評価に終わる可能性もある。確かに有能だが、登場するのが遅かったと。
武装勢力の掃討を成功させるためにやるべきことは、はっきりしているともいえる。ぺトレアスが言うように、アメリカには武装勢力を壊滅させることはできない。武装勢力を打ち負かせるのは、国民の支持を得た地元の軍だけだ。
おそらくぺトレアスは、現地の民兵を訓練してタリバンと戦わせようとするだろう。だが、これはソ連軍が失敗した手法だ。
アフガニスタンには「われわれを『借りる』ことはできても『買う』ことはできない」ということわざがある。それに血の復讐を招くと知りながら、タリバン兵士を殺そうとする者がいるだろうか。
アメリカ国民も勝利の可能性には懐疑的になっている。最新の本誌世論調査によれば、オバマが景気を回復できると答えた人は71%いたが、アフガニスタン情勢を改善できると答えた人は48%にとどまった。
アフガニスタンの戦争はイスラム過激派との「長きにわたる戦いでも最長のもの」になると、ペトレアスは言い続けている。アメリカ国民にそんな戦いをする用意があるとは思えない。
本誌調査によれば、景気回復に次ぐアメリカ人の関心事は医療保険改革だ。アフガニスタン問題を最重要課題とする人は「イラク」という回答より少ない10%にとどまった。アフガニスタン情勢に進展がなければ、10年の中間選挙では「オバマの戦争」に非難の大合唱が巻き起こるかもしれない。