コラム

中国が駅での「安全検査」に熱心な本当の理由

2018年08月04日(土)13時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)

(c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<中国各地の地下鉄や高速鉄道の駅では、まるで空港のように厳しい保安検査を受けなければならない。その目的は「人民」の安全を守るためだけではなく......>

乗り物に乗る際の安全検査を中国語では略して「安検」と呼ぶ。中国の安検がどれほど厳しいか、ソーシャルメディアでよく話題になる。「ボトルを開けて、ミネラルウオーターを一口飲んでみせて!」。これは水なのかガソリンなのかを確認するため。「そのお団子ヘアの女、止まって!」。これは何か危険物がお団子に隠されていないか調べるため。

なんと厳しい検査だろう。しかも、これは飛行機に搭乗する前の空港での検査ではなく、地下鉄や高速鉄道に乗る前の駅での検査なのだ。

地下鉄の安全検査は08年北京オリンピックの時に始まり、それ以降上海、広州など各都市に広がっている。エックス線検査装置、固定式や携帯型の金属探知器、液体探知器、爆発物探知機など、いろんな装置が中国各地の駅に備わっている。広州市の各駅に設けられた855カ所の検査所の17年から3年間の合計予算は26億7000万元(約430 億円)。検査所1カ所の年間予算は100万元(約1600万円)以上だ。

どうして地下鉄駅でこんなに厳しい検査が必要なのか。「人民の安全を守るため」という中国政府の説明も1つの理由だが、もう1つの理由は「政権の安全を守るため」だろう。

貧富の格差、官僚と国有企業の汚職、チベット・新疆ウイグルなどの民族問題、香港市民と北京政府の対立、台湾独立......。中国政府は焦燥感に駆られている。警備の強化は権力者の不安を解消する精神安定剤だ。毎年10月1日の国慶節に天安門広場で平和の象徴のハトを1万羽放すときも、警察は事前に1羽も漏らさずハトの肛門の「安検」を実施している。

実際に検査を行う各地方政府にとっても、「党と国の安全を守る」という理由は誰も反対できないから国に経費を申請しやすい。もう1つの裏の理由もある。それは経済効果。都会の雇用問題を解決できるのだ。

地下鉄駅の安全検査が必要な出口には、1カ所で少なくとも2人の安全検査員が必要になる。例えば、広州では検査所が855カ所あるから、1500人以上が就職できる。設備の購入、管理、維持と更新にも全て費用がかかる。これら全てが各地方政府のGDPに大きく貢献するのだ。

【ポイント】
地铁入口、思想安检、危险

それぞれ「地下鉄入り口」「思想安全検査」「危険」

ハトの「安検」
中国警察は国慶節の前日夜7時からハトの検査を開始。1羽ごとに危険物が隠されていないか肛門と羽の下を調べ、録画までする

<本誌2018年8月7日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story