コラム

難民キャンプで生まれ育ち、写真家になった男

2016年03月30日(水)06時20分

トルコから海路でレスボス島に入った後、フェリーでアテネに向かう難民たち From mujtabajalali @mujtabajalali

 運命的な出会いとか境遇、あるいは持って生まれたアイデンティティーそのものが写真家を大きく成長させることがある。かけがえのない財産になることがある。まだ24歳のアフガニスタン人であるムジュタバ・ジャラリは、そんなことを彷彿させてくれる写真家だ。そのテーマのすべては、マイグレーション(転住)、あるいは難民である。

 彼の写真に初めて接したのは、昨年、時の大ニュースになった――今現在もだが――シリア、イラク、アフガニスタン、スーダン、ソマリアなどからヨーロパへの膨大な数の難民騒動の中でだった。リサーチ中に触れた大量の写真の中で眼に留まったのだ。

【参考記事】難民はなぜ、子供を連れて危険な海を渡るのか

 作品は、難民たちと同じルートで行動を共にして撮られていた。親近感と緊張感が非常に入り混じっていた。被写体と同じ目線、同じ境遇を体験してこそ撮れる写真だった。いやそれ以上かもしれない。彼の写真は難民たちの苦難を伝えていたが、そこには押し付けがましさなどはなかったからだ。他にも難民と行動を共にした写真家はいたが、そうした点で彼らとは明らかに違っていた。

【参考記事】シャガールのように、iPhoneでイランを撮る

 彼の経歴を知って納得する。彼自身、イランの難民キャンプで生まれ育ったアフガン難民だった。戦争そのものは経験したことがなくても、常に戦争と難民問題が生活につきまとっていた。おまけに、3年前にカメラを購入した後、ごく自然にイラン国内の同胞アフガン難民を撮影するようになっていたが、そうした経緯の中で、イラン政府によってリクルートされ、シリアでアサド政権のために戦うことになり命を落とした若きアフガン難民たちも取材していた。

An Afghan refugee's waiting for smuggler in a stables to show him the way to the Turkish border.

Photo-grapherさん(@mujtabajalali)が投稿した写真 -

トルコ国境まで案内してくれる斡旋業者を待つアフガン難民


プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スウェーデン、バルト海の通信ケーブル破壊の疑いで捜

ワールド

トランプ減税抜きの予算決議案、米上院が未明に可決

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、2月50.2で変わらず 需要低

ビジネス

英企業、人件費増にらみ雇用削減加速 輸出受注1年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 9
    ハマス奇襲以来でイスラエルの最も悲痛な日── 拉致さ…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 8
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 9
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story